約束の店は赤坂にある高級フレンチレストランだった。
「何だって、こんな店を選ぶんだ」
工藤はブツブツと口にしながら、店のドアを開けた。
案内されたのは個室で、これにも眉を顰める。
「あ、やっと来た、工藤さん、おそーい。お腹空いて死にそう」
待ちかねたとばかり、中川アスカが早速文句を言った。
タレント、社員合わせても総勢十数人だが、業界では知らないものがない青山プロダクション、その所属俳優である。
かつてMBC局時代、敏腕プロデューサーとして名を馳せたのが、プロダクションの社長である工藤高広だ。
今時パワハラと言われるのは必須とはいえ、何かあれば雷を落とすので鬼の工藤と恐れられる男だが、アスカはそんな工藤にもびくともしない。
いや、動じないのは工藤に対してだけではないかもしれない、巨匠だろうが名監督だろうが、アスカにとってはそんな肩書きは無用のシロモノのようだ。
アスカにマネージャーの秋山はわかるが、広告代理店プラグインの藤堂が今回の面子に混じっていた。
「良太もくればよかったのに」
料理が運ばれると、またアスカがそんなことを言った。
「ロケに行ってる。それより、何だ? こんな店でわざわざフルコースで打ち合わせなけりゃならないことってのは」
工藤は不機嫌を隠そうともせずに尋ねた。
「あ、違うの。ここは、あたしがフレンチが食べたいって言っただけ」
工藤の手が止まる。
その怒りが爆発する前に、「ああ、いいんです。ここはうちが持ちますから」と藤堂が言った。
「そういう問題じゃないだろう?」
「まあまあ、たまにはいいじゃありませんか。とにかく、例のCMのことなんですよ、携帯の」
最近、アスカと、ワイルドなイケメンとして今人気上昇中の植山一馬が携帯電話のCMで共演したのであるが、このプロジェクトには第二弾も予定されているし、反応がよければこの二人で新たなバージョンも作られることになっていた。
さらにいずれはこの二人の主演でドラマという計画もあった。
そのドラマ計画が今現在ペンディングになっている。
理由はここにいる面子はよく知っているのだが。
「ペンディングはドラマだ。CMは進めてかまわないだろう」
工藤はこの話題にもイラつきながら答えた。
「いや、ドラマのスポンサーであるDU携帯の方は植山を押していましてね、次のバージョンも当然植山でいきたいし、さらにドラマと連携するものとして考えているということなんです」
植山のドラマ出演をペンディングだと、植山の事務所所長である平に言い渡したのは、工藤本人である。
このCM出演が決まった時、ドラマの話も持ち上がったのだが、植山をドラマにぜひ使って欲しいと工藤のところにねじ込んで来たのは平だった。
植山を過小評価しているわけではない。
ただ、トラブルメーカーであることがネックだった。
現に、このCM制作の最中に表沙汰にはなっていないものの、呆れたトラブルを引き起こしたのである。
「植山、とりあえずCMの撮影中は神妙にやってたわよ。佐々木ちゃんもたまに顔を合わせたけど、何か憑き物が落ちたって感じで」
アスカが言った。
「だってさ、まあ、相手が沢村っちじゃ、植山もさすがにかなわないと思ったんじゃない?」
工藤はアスカの台詞に引っかかった。
「何だ、その、相手が沢村ってのは?」
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