ある日の午後2(ラスト)

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「だから、佐々木ちゃんの相手が沢村っちってことがわかったから、植山も佐々木ちゃん諦めたんでしょ? こないだのスキー合宿の時だってさ、沢村っち、わざわざ宮崎から飛んできたんだよ? もう、ラブラブ!」
 アスカが軽く話している内容を反芻しつつ、工藤はしばし言葉を継げずにいた。
「佐々木さんと、沢村が、何だって? 沢村ってのはどの沢村だ?」
 藤堂と秋山は何やら口を閉ざしている。
「やだ、良太の沢村っちに決まってるでしょ? よかったじゃない、工藤さん。沢村っち、良太にもう横恋慕するのやめたみたいよ? あ、でも、良太のこと好きなのは確かなのよ! ただ、もう佐々木ちゃんに燃え上がっちゃっただけで」
 ついに工藤もそれに対して答える術をもたなかった。
 だが、このミーティングをこの高級レストランのVIP用個室にしたのはやはり正解だったかもしれないと思ったことは確かだ。
「まあ、佐々木ちゃんなら、無理ないよね、スキー合宿でも沢村っちが来る前、モデルの男に言い寄られてたし。あんな場面に沢村っちが出くわしたら大変だったよね。沢村っち、大っぴらに過ぎるって良太は心配してるけどさ」
 デザートをペロリと食べ終えると、アスカはすましてコーヒーを飲んだ。
 デザートには手をつけず、コーヒーを飲み終えた工藤は立ち上がった。
「悪いが、もう時間がないので先に失礼する。植山の件は平ともう一度話をする。それでいいな?」
 藤堂が「了解いたしました」と答えると、工藤はさっさと部屋を出て行った。
「我々もそろそろ行かないと遅れます」
 秋山が言った。
 レストランを出たところで、アスカが、ねえ、と藤堂を呼び止めた。
「そういえば、さっき、工藤さん、どさくさにまぎれて否定しなかったよね?」
「何を?」
 藤堂は聞き返す。
「空とぼけてるし。あたしが、工藤さんに、沢村っちが良太に横恋慕するのやめたみたいだからよかったねって言った時よ」
 それには答えず、藤堂は笑みを返した。
「ではよろしくお願いします」
 藤堂に見送られてアスカと秋山はタクシーに乗り込んだ。
「藤堂さんもさ、秋山さんに負けず劣らずタヌキよねぇ」
「私ごとき、藤堂さんには太刀打ちできませんよ」
 冷静な顔で秋山が言った。
 
 
 
 
 工藤にとってはまさかの話だった。
 あの佐々木が沢村と付き合っているだと?
 何だ? それは。
 良太はそんなことは一言も言っていなかったが、まあ、そんなことを俺に言う義務もないが、確かに沢村がそれでは心配しているだろう。
 だからか、と思い出したのは、佐々木を植山が拉致するというバカなことをやらかした時のことだ。
 佐々木や植山のこともだが、なるほど沢村の立場を考えて、良太はことを荒立てないようにしようと必死だったのだ。
 沢村、あのバカ、目の前のものしか目に入らずに、周りのことなんかお構いなしのようだからな。
 タクシーを拾い、運転手にMBCテレビを告げると、工藤はポケットから携帯を取り出して、いつもの番号を押した。
「俺だ。今晩、仕事が終わったら、前田の店に行くか?」
 相手は無論良太で、すぐに「あ、行きます!」という答えが返ってきた。
 終わったら連絡する、と良太に告げて携帯を切ると、ちょうどMBCテレビのエントランスに着いた。
 テレビ局を歩いていると、鬼の工藤に出くわせば誰もが恐る恐る会釈を返すのだが、その日は少し違っていた。
 大抵の者が、すれ違ったあと工藤を振り返って首を捻った。
「工藤さん、お疲れ様です。あれ、何か面白いことでもありましたか?」
 ベテラン俳優が工藤を見て言った。
 ようやく、知らず笑みを浮かべていたのに気づいて、工藤は慌てて咳払いでごまかした。

 


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