春雷1

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 金曜日は雨になった。
 窓の外を見ただけで良太は肩を震わせて毛布を被り直した。
 冷たい二月の雨の中、工藤は朝イチの新幹線で大阪へ向かったはずだ。
 大阪に本社を置く製菓会社の会長と藤田自動車の社長藤田を介して近年親しくなり、工藤はちょくちょく呼ばれて出向いている。
 在京のキー局で敏腕プロデューサーとしてその名を馳せた工藤が興した青山プロダクションは乃木坂にあり、テレビ番組、映画等の企画制作及びタレントの育成、プロモーションが主な事業内容で、規模は小さいが、不況真っ只中のご時世にあって右肩上がりの業績を挙げている。
 所属若手人気俳優南澤奈々を起用する予定で今、その製菓会社のCMプロジェクトが動き始め、京都でドラマの撮影があった奈々とそのマネージャーである谷川とは、大阪で工藤と合流することになっていた。
 その後工藤はプロジェクトのスタッフと関西空港からスポンサー側にロケ地に指定されているオーストラリアへ飛び、戻るのは週明けになるはずだ。
 だからというわけでもないだろうに、昨夜遅く帰った良太は、夜中、工藤の襲撃を受けた。
 何をさかってるんだ、明日は朝早くからロケなんだからと並べ立てた良太の文句など全く聞く耳を持たず、工藤は良太を嬲り倒したのだが、とどのつまり終いには良太も工藤の手管に溺れてしまうのだからどうしようもない。
「ったく、急いでんのに!」
 とっくに工藤は出かけていたが、着替えて出かけようとして念のため鏡を覗いた良太は、案の定微妙なところに痕を見つけて文句を口にしながら、また青山プロダクションにとっては貴重なバイト要員である森村にもらったコンシーラーの世話になることになった。
「今夜は亜弓と会うってのに」
 妹に変にヘロヘロな顔を見せるわけにはいかない。
 ってより、これ、絶対亜弓に見せらんないヤツだからな!
 後でまたコンシーラーを塗り直そうと思いつつ、良太はジャガーのエンジンをかけた。
 今日は、俳優の竹野紗英のスケジュールの都合でドラマ、『今ひとたびの』のスタジオ撮影が早くなり、もともと予定されていた『コリドー通りで』のロケと重なったため、スタジオには森村を行かせてある。
 それなのに良太が遅刻するわけにはいかないのだ。
 まあ、『今ひとたびの』のスケジュールが早まったお陰で、良太は夕方、亜弓と会う時間が出来たわけだ。
 さっきまで降っていた雨も上がりそうだし、タイトルのコリドー通りや、銀座周辺でのロケの方は遅くとも夕方までには終わる予定だ。
 亜弓にもラインでそう伝え、何かあったらまた連絡を入れると付け加えた。
 何もないことを祈りたいが、坂口という御仁がいるからには、楽観はできない。
 大御所脚本家の坂口肝入りのドラマは、こちらも人気俳優宇都宮俊治と青山プロダクション所属俳優小笠原祐二のダブル主演によるクライムアクションだ。
 スピード感あるカメラワーク、躍動感あるシーンに加えてクールな頭脳派宇都宮と元気印賑やか刑事小笠原の掛け合いがうまく絡み合っている。
 さらに、プライベートでも実際付き合い始めた小笠原と端役で出演しているタレントの美亜のほんわかラブ、宇都宮と敏腕警部との大人ラブも伏線で進んでいる。
 宇都宮も小笠原も気合が入っていて、ワンシーンの撮影ごとに、監督や坂口らと細かい打ち合わせをしてから撮影に入り、カットがかかるたびにモニターで確認しながら常に二テイクから三テイクは当たり前という念の入れようである。
 宇都宮と小笠原のシーンでは何度も二人で顔を突き合わせて納得のいくまで話し合う光景が何度もみられた。
 路地裏では乱闘シーンもあるため、時間の経つのも忘れて撮影が続けられた。
 良太は撮影が行われている全体をなるべく俯瞰で見るようにしている。
 中で動いている人にはわからないことも時としてあるからだ。

 


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