そういえば、工藤にもはずみで告ってしまったんだった、と良太は思い起こす。
「初めての彼女だったのに、かおりさんとは結局ダメになっちゃうし」
亜弓がさらに突っ込みを入れる。
「うるさいな。しょうがないだろ、俺、あの頃浪人だったし、向こうは大学生ですぐにいろいろもててたみたいだし」
今となってはそんな頃のことも懐かしく思い出される。
「知ってる? かおりさん、肇くんと結婚するって」
「え、お前こそ何で知ってるんだ? 一応、俺も沢村も披露宴には呼ばれてるけど」
思いがけず亜弓の口から出た話に、良太は聞き返した。
「何で沢村が行くのよ?」
また亜弓が冷たい視線を沢村に向ける。
「ああ、俺たち最近四人でたまに会ったりしてるんだ」
沢村の代わりに良太が説明した。
「何だ、そうなの。こないだお母さんが、実家に用があって川崎に帰った時、たまたまかおりさんのお母さんに会って、聞いたんだって」
それを聞くと、良太は不意に、生まれ育った町のことを思い出した。
古い、父親が祖父から譲り受けた家も、当時父親が営んでいた自動車整備工場の油の匂いも、すぐ傍にまだ記憶があった。
一度だけかつての家のあったあたりを通りかかったことがあるが、今はもうそれらは跡形もなく、新しいアパートが建っていた。
「おかあさん、心配してたよ。かおりちゃんには振られちゃったのねって」
亜弓の咎めるような言葉に、良太は何も言えなくなる。
「ダメモトで言ってみれば? おとうさんたちに」
いきなりな提案に、良太は眉を顰める。
「何を?」
「工藤さんと付き合ってるって」
あまりにはっきり言葉にされて、良太はそれこそ言葉がない。
「案外、へえ、そう、くらいなもんかもしれないぞ。俺のおふくろとか、佐々木さんのおふくろさんみたいに」
沢村が軽々しいことを言う。
「佐々木さんのお母さんにはまだお試し期間だろうが」
怖そうな佐々木の母親を頭に思い浮かべながら、良太は言い返す。
「大体、お前はそう軽々しく口にするな! 佐々木さんの立場ってものもあるんだからな。それに、沢村のオヤジさんに知られたらまずいだろう」
「んなこたわかってるし、沢村のうちとは縁を切ってるからどうでもいい」
傲岸不遜に沢村は言い切った。
亜弓は沢村の仏頂面をチラッと見やったが何も言わなかった。
確かに子どもの頃から後先考えず動く良太の横で、その分、何かと考えてから動くのが亜弓だった。
子どもの頃からなりたかった教師になったことでも、しっかりと信念を貫いているといえた。
「悪かったな、せっかく来てくれたのに、アスカさんはともかく、沢村まで」
「いいわよ、いろいろなことわかったし」
それを聞くと、良太はあーあ、と思う。
一応、亜弓にはどう言おう、などと考えてはいたが、アスカや沢村の発言から、余計なことまで亜弓に知られてしまった。
ここまで来たらそれこそもうどうでもいいや、と思ってしまう。
「もしかさ、本宮さんのことお母さんたちに紹介してもいいかってなったら、その時ほら、本宮さん、弟さんの話絶対するから、それでお母さんたちの反応見て、OKそうだったら、お兄ちゃんもちゃんと話したらいいじゃない」
亜弓もいろいろ考えた末の結論だろうと、良太は思ったが、あまり話したくないのは、自分と工藤の場合、沢村と佐々木のような、本宮の弟の場合のようにちゃんとしたパートナーだとは言えないところにあった。
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