春雷14

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「何だよ、お前もいっちょ前に彼氏紹介すんの?」
 沢村が茶々を入れる。
「フン、沢村みたいにちゃらちゃらしてない真面目な教員だから」
「弟さんの話って何?」
 亜弓の突っ込みなどどこ吹く風で沢村は聞き返した。
「うん、まあ、本宮さん、話せる相手には話しているからとは思うけど、ニューヨークにいる弟さん、パートナーが男で結婚してるのよ」
「ああ、向こうだと結婚もできるんだよな。俺も佐々木さんとニューヨークとか行きてぇな」
 沢村がぼやく。
「行ったらいいじゃない。そういえばMLB行くんじゃなかったの?」
「若いやつらみたいにMLB行くんだ、みたいな気概はないし、佐々木さん、母親と二人暮らしだから、残してニューヨークってわけにいかないんだ」
「待てよ、確かボストンのレッドイーグルスの監督から再三オファー貰ってるだろ、お前」
 その噂はもう半年くらい前から良太の耳にも入っていた。
 以前、沢村がフロリダのスプリングトレーニングに参加した時に、レッドイーグルスのブルックス監督が沢村を気に入って、以来、MLBに誘っているらしい。
 一度良太と一緒にアメリカに渡ると言ってた時が最初のオファーがあった年だったようだ。
 だが、佐々木と付き合い始めた沢村は、MLBへの興味を失ったかのように見えた。
 いや、佐々木とMLBを天秤にかけて、佐々木を取ったのだろう。
 この話はおそらく、佐々木には伝えていないに違いないと良太は思う。
 もし知っていたら、佐々木はとっくに沢村にMLB行きを勧めたに違いないのだ。
「だから行く気はないんだって。そうだ、お前、そのこと絶対佐々木さんに漏らすなよ?」
 きっぱりと言い放つ沢村を良太は怪訝な顔で見た。
「わかってるよ、だけど、俺が言わなくてもどこかからか佐々木さんに知れる可能性はあるだろう」
「第一MLBに行くにはもう遅すぎるだろうが」
「ブルックス監督はそうは思ってないみたいだぞ?」
 すると沢村はまた不機嫌そうにグラスに酒を注ぐ。
「俺はもう、限界まで日本でプレーして、あとはウイルソンとの事業、やるし。佐々木さんにもそう言ってある」
 良太には沢村の言葉は揺るぎないようにも思われた。
「でもさ、もしか何年かして、ブルックス監督が沢村にオファーしてたって佐々木さんが知ったら、あの時沢村がMLBに行かなかったのは自分のせいじゃなかったのかって、佐々木さん自分を責めたりしなきゃいいけど」
 この時亜弓の口から出た言葉は、当然沢村にも、そして良太にも重く感じられた。
「海外に単身赴任なんていくらでもある話じゃない? オフには日本に帰ってくればいいわけだし」
「あのな、お前らと違ってそう単純な話じゃないんだよ」
 沢村はジロリと亜弓を睨み付ける。
 その時良太は、沢村と佐々木らと自分を比べて、沢村らが男女ではないにせよ、うまくいっているカップルだと羨んでいた考えを改めるべきだと反省した。
 何となく、沢村の中にある不安材料と自分のそれとが似通っているものだと感じた。
 沢村は、佐々木が自分から離れていくのではないかという恐れを漠然と抱いているのだ。
 単身赴任で行ったとしても、自分がMLBのプレイヤーのパートナーではいられないとか何とか、佐々木はまた自分から関係を断ってしまうかもしれない。
 宮崎にたった数日行くだけでも躊躇してしまう佐々木が、一緒にアメリカに渡るとかあり得ないだろう。
 そんなことを沢村は考えているのだろうと、良太は思いやった。
 どんなカップルでも思いの丈が互いに同じとは限らない。
 どちらかが重ければ、そこに不安要素が生じても不思議ではない。
 ましてや、カップルでもない自分と工藤のことなんか、たとえ親がいろいろと理解を示したとしても、話せるはずはないのだ。
 それぞれが何やら考え込んでいた静けさを破って、ワルキューレがけたたましく鳴り響いた。

 


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