春雷15

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「あ、お疲れ様です」
 良太はすぐに電話に出た。
 とっくに午前零時は過ぎている。
 また何か面倒ごとじゃないだろうなと思った良太の耳に、「妹さんは帰ったのか」という工藤にしては意外な言葉が返ってきた。
「ああ、いや、まだ、なんですけど」
 その時、沢村が二本目の酒を開けようとしているのに気づいた良太は、「おい、もう、開けるな。その辺にしとけ」と忠告する。
「酒くらい飲ませろよ」
 沢村は良太の忠告など無視して既にグラスに注いでいる。
「いったいなんだ?」
 電話の向こうで工藤の怪訝そうな声がした。
「いやあの、沢村が来てて」
「沢村が何しに来たんだ?!」
 途端に工藤は声を荒げる。
「いろいろあるんです。それに、実はアスカさんも来てて」
「何だと? またおかしなことを考えてるんじゃないだろうな」
「それはないです……けど、アスカさん、ちょっと情緒不安定で」
「秋山を呼べばいいだろう」
「え、ダメです!! ってか、ちょっとアスカさんのこと、秋山さんには黙っててください」
 しばし沈黙があった。
「何を考えてるのか知らんが、明日の仕事に響かないようにしろって言っとけ」
「わかってますよ! あ、朝飯、ちゃんと食べてくださいよ!」
「ああ」
 良太が慌てて付け足すと、不機嫌そうな声がやがて切れた。
「ったくあのオヤジは!」
 くどくど良太が言ったところで、特に朝は時間がないとやら、邪魔が入ったとやら、何かと理由をつけて食べないことが多い。
 鍛えているし、基礎体力はあるし、サプリメントなどは取っているようだが、やはり食事は少しでもコンスタントに摂るに越したことはない。
「工藤、どこにいるって?」
 チーズを齧りながら、沢村は酒をゴクゴクと飲む。
「大阪」
「いつまで?」
 いつのまにか、沢村が持って来た酒を飲んでいる亜弓が聞いた。
「関西空港からオーストラリアだから、週明け」
「そうなんだ」
 それからしばらく三人でボソボソと喋っていたが、そのうち亜弓は炬燵に突っ伏して眠ってしまった。
 良太はクローゼットから毛布を取り出して、亜弓にかけてやった。
 毛布やシーツは平造が何枚かクローゼットに用意してくれているし、バスルームにはタオルやバスローブなども数枚余分に置いてある。
 それが役に立つとは思っていなかったが、さすがに沢村も炬燵に脚を突っ込んだまま寝転がったので、良太はクローゼットから毛布を取り出して沢村に渡し、自分も羽織ると明かりを落として炬燵に横になった。
 目を覚ましたのは頭をツンツン突かれたからだ。
 良太はナータンあたりがご飯の請求でもしてるんだろうと、一度はちょっと頭を避けた。
「ねえ、良太ってば、起きてよ」
 その声に、良太がはたと目を覚ますと、炬燵で横になっていた亜弓も起き上った。
「コンビニでパンツ買って来てくれない?」
 ようやく自分を見下ろしているのが頭にタオルを巻いたバスローブのアスカだと気づくと、「はあ? パンツ?」と口にしながら良太は身体を起こす。
「だって着替えないんだもん」
 アスカは割とさっぱりとした表情をしていた。
 既にカーテンの隙間からの陽差しは明るい。
 少しは落ち着いたんだろうか、とアスカの顔を見て良太は思う。
「しょうがないなあ。ってか、パンツって……」
 女性用のパンツをコンビニで買うというのはいささか抵抗があったが、仕方がないと良太は立ち上がる。
「秋山さんはすぐ買って来てくれるわよ」
「はあ、わかりましたよ。亜弓、沢村起こしといて」
 ジャケットを羽織って出て行こうとした良太だが、「あたし、行ってくるよ」とかって出てくれた亜弓に、良太は助かったという顔を向ける。
「他に欲しいものある?」
「ごめん! んじゃあ、みんなの朝ごはん、お願いしていい?」
 アスカも亜弓に対しては申し訳なさげに言った。
「わかった」
「悪いな、亜弓。向かいにコンビニあるから。コーヒーは入れとくし」
 すまなそうな顔の良太に、亜弓はにっこり笑って出て行った。

 


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