「ねえ、秋山さんは?」
休憩に入ってっすぐ、アスカがやってきた。
「ああ、何か用があるみたいで、でも一時間程で戻るって」
良太はなるべくさり気なく答えた。
「ふうん」
アスカはそう言っただけでさほど動揺もしていないようだ。
メイクさんが来てアスカの顔を直し始めた時、良太の携帯がポケットで震えた。
森村からのラインで、秋山と女性の画像を送って来て、内容はわからないが深刻そうな顔で話をしているという。
「あ、やっぱり………」
画像の女性を見て良太は思わず口にした。
スキー場で出会った、佐藤さんという女性だ。
ややあって森村は今度は、動画を送ってきた。
画面は多少ブレたりするものの、秋山と佐藤のようすからどう見ても恋人同士の語らいのようには見えなかった。
すると秋山が佐藤に名刺らしきものを差し出している。
佐藤は少し涙目のような感じで、秋山の話に何度も頷いている。
やがて二人が立ち上がったところで動画は切れた。
それから森村から電話が入った。
「今、秋山さんホテルを出た。女性は何度も秋山さんにお辞儀をしてて、ホテルの中に入って行った。ちょっと時間ずらして、戻ります」
「ああ、ありがとう。お疲れ」
森村の言う、お辞儀をしていた、という表現からも、おそらく佐藤は何か秋山に相談事があって東京に出てきた、ということだろうと、良太は考えた。
アスカの心配するようなことが全くない、とは言えないものの、動画のようすからも秋山が佐藤に何かしらの感情を持って接しているようには見られなかった。
いずれにせよもう少し秋山のようすを見て、秋山と佐藤との関りがそれだけのものなら、アスカにそれとなく話すつもりだ。
「ってか、ほんと、秋山さんって何考えてるかわっかんないよな」
ブツブツ言いながら良太は、夜の公園で死体が見つかったというシーンの撮影に目をやった。
アスカが鋭い筋読みを披露して見せる、重要なカットだ。
やがて秋山が戻って来てから十分ほどたって、気づかないうちに森村が良太の横に立っていた。
「おう、いつの間に」
「まあ、気配を消して偵察するのは得意」
「モリー、やっぱADとかより、そっち系の仕事のがあってんじゃないのか?」
森村は肩を竦めて笑みを浮かべる。
「彼女のこともう少し探ってみる?」
「え?」
「多分、今日はもう出ないと思うけど、時間的に、明日、また尾行してみようか?」
確かに夜の十時を過ぎている。
夜遊びに出かける雰囲気の女性でもないから、動くとしたら明日かも知れない。
「そう、だな。じゃあ、頼む」
「Copy!」
森村はいたずらっぽく笑った。
明日は撮影もないし、良太はデスクワークの予定なので、森村に動いてもらっても大丈夫だろうと判断したのだ。
秋山のプライベートを探るようでちょっと気が咎めたものの、佐藤と秋山が何も関係がないということさえわかれば、アスカも少しは心を落ち着かせることができるのではと思う。
その上で、アスカが秋山への思いをどうするかは、彼女が決めることだ。
だがもし、アスカが秋山にコクったら、秋山はどうするだろうと考えると、良太は気が重くなる。
両想いでめでたしめでたし、なんてのは秋山から到底思いつかないからだ。
告らなければアスカはこれからその想いを抱いたまま秋山と仕事を続けることになる。
そんなきついことが、あのアスカさんにできるかなあ。
何だか身につまされる思いがする。
部屋に戻っても、つらつら考えると、良太の口からは溜息しか出てこない。
風呂から上がって缶ビールのプルトップを開けると、良太は半分ほど飲み干して大きく息を吐く。
「まあ、仕事に支障をきたすようなことがあれば、ちょっと考えないとな」
仕事のことならまだしも、人の恋路に首を突っ込んでも何もできることはない気がした。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
