「おい、お前は小田の面倒ごとなんかに首を突っ込んだりするんじゃないぞ」
良太が絡みそうな気配を察したように言う工藤に、さすがに鼻が利く、と良太も感心する。
「……まさか、武闘派集団の加藤さんたちをご指名ということなんで、俺はそっちはからきしですし」
すると工藤は、胡散臭げな目つきで良太を見るとフンっと鼻で笑い、ちょうどかかってきた携帯に出た。
モリーに佐藤さんのこと探らせてて、小田弁護士が尋ねて行ったとか、モリーにも口止めしとかないと。
良太は口をしっかり閉じてアクセルを踏んだ。
オフィスに戻ってしばらくすると、アスカと秋山が現れた。
工藤に呼ばれていたらしく、すぐに窓際のソファで打合せを始めた。
良太は気になってチラ見するが、アスカも秋山もいつもと変わりないように見えた。
アスカのようすがいつもと違うようなら、佐藤さんは秋山と付き合っているわけではないだろうことをそれとなく伝えるしかないと思った良太だが、それも杞憂のようだ。
ただし佐藤さんが小田弁護士に何かを相談したことは確かだが、それと秋山とどうこうはまた違う話かも知れない。
いや、そこのところさえわかれば、佐藤さんが何か由々しい問題を抱えていたとしても、良太が首を突っ込む必要はないわけだが。
佐藤さん、ね。
一つ企画書を作成し終わってプリントアウトしている間に、良太は何気なくネットで、信州、佐藤、などとキーワードを入れて検索してみた。
佐藤などという苗字は日本一多いわけだから、そんなもので何かが引っ掛かるとは思っていなかった良太だが、佐藤製作所のお家騒動なる記事が目に留まり、クリックした。
佐藤製作所は建設機械を扱う長野県では大手の企業だが、創業者二代目である社長の佐藤孝蔵が病に臥せっていて、娘婿で専務取締役の佐藤彰吾と、取締役で社長とともに会社に尽くし、会社を大きくしたと言われている滝沢昭信が社長の椅子を争い、会社が二分している、という内容だ。
ところが数日前、滝沢の横領が発覚し、警察から事情聴取を受けているが、滝沢側は全く身に覚えがないことと主張しているものの、佐藤彰吾の社長就任は今後の捜査を待たずに確定する見込みとある。
ひょっとして、これじゃないのか、と良太の勘が言っていた。
佐藤さんはこの会社の関係者で、ひょっとしたらこの社長の娘、ということも考えられる。
まあ、佐藤さんが結婚しているとしても、秋山さんと何もないとは言えないんだけど。
結局はそこにいきつくのだが、佐藤さんが秋山に相談していたのはこのことと関連があるのだろうと、良太はそこはもう確信をもっていた。
「良太さん、WEBの方、おわりました」
その時森村が声をかけたので、良太は手招きした。
「はい」
横に立った森村に、良太はメモに「この企業と関係があるらしい。ホテルの女性と小田弁護士」とペンで書いてスライドさせた。
「はあ、なるほど」
森村は良太が工藤にも内緒にしたいのだと瞬時に把握した。
「何なら、俺、これについて調べてみましょうか?」
「時間あるかなあ」
「大丈夫です。明日一日あれば」
「じゃあ、お願いしてもいいかな? できる限りでいいから」
「Copy!」
やはり森村はデスクワークより、身体を動かすことの方が好きらしい。
仕事で調査を頼むわけだから、良太は森村にこの佐藤という女性について何故調べたいかをラインで送った。
アスカの思いをそうそう人に話すのはどうかとは思うのだが、それを話さないことには始まらない。
森村が信用が置ける人間で、口が堅いのは今までの経験上わかっている。
小田弁護士には守秘義務があるから、軽々しく佐藤さんについて教えてくれるはずもないし、この案件が何らかの形で終結したとしても、それはそれ、秋山と佐藤さんの関係や、アスカの心を軽くする術には繋がらないわけだ。
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