春雷22

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 アスカのことも心配だし、ともすれば仕事にも影響を及ぼすかも知れないとなれば、良太としてはそれらの方が重要案件である。
 良太と森村がコソコソと顔を突き合わせて明日の予定を確認しているうちに、窓際のソファから工藤が立ち上がり、秋山とアスカも立ち上がった。
「お腹すいた。何か食べてから行こう」
 アスカが言った。
「はいはい、何がいいですか?」
 秋山が聞き返す。
「うーん、ブイヤベース?」
「じゃあ、ビストロリヨンはどうです?」
「きまり!」
 二人の会話はいつも通りのようだ。
「じゃあ、お疲れ様!」
 ドアを開けてアスカがオフィスの方を振り返った。
「お疲れ様です」
 ただ良太には、アスカが去勢を張っているのかも知れないとも思われた。
 秋山は何かアスカのことで気づいていないのだろうか。
「良太、アスカ、何かあったか?」
 その時唐突に自分のデスクから工藤が聞いてきた。
「え………、アスカさん、どうかしたんですか?」
「いつもよりトーンが低かった」
 さすが、工藤!
 思わず良太は口にしそうになった。
 伊達に鬼だのなんだの異名を取ってるわけじゃないんだ。
「そうなんですか? 秋山さん、何か言ってました?」
「いや、あいつもどこからしくなかったな」
「そうなんですか」
 あくまでも良太は知らないふりを決め込んだ。
 小田がやってきたのは、六時を少し回った頃だった。
「工藤、ちょっといいか」
「ああ、何があったんだ?」
 小田は工藤をソファの方へ促して、向かい合うと、鈴木さんがお茶を出すのも待たずに話し始めた。
「あ、モリー、もう上がっていいよ」
 鈴木さんが帰り支度を始めたので、良太は森村に声をかけた。
「はい。それじゃ、お先に失礼します」
 森村は椅子の背に掛けていたリュックをひょいと掴み、そそくさとオフィスを出て行った。
「いいかしら、お先に失礼しても」
「大丈夫です。お疲れ様でした」
 鈴木さんは小田がいるので気を遣ってくれたようだ。
 そうこうしているうちに加藤が現れたので、良太は小田に紹介し、二人を上の階の会議室へと案内した。
 滅多に使わないが、たまにスタジオ代わりに嘱託カメラマンの井上が撮影に使ったりもしている。
「どうぞ」
 二人が部屋の中に消えると、オフィスに降りて良太はお茶を用意しようとキッチンに向かった。
 さっき工藤と小田が話していた内容は全く聞こえなかったが、今ちょうど工藤が電話で秋山を呼び出したところだった。
「この後予定が入っているか? そうか。じゃあ、アスカを送った後でお前の部屋に行く」
 工藤の言葉からこれから秋山に会うらしいと、良太にもわかった。
「どうぞ」
 良太はコーヒーを三つ用意して、一つを工藤のデスクに置いた。
 それから上の階へ上がり、ドアをノックした。
「失礼します。お茶、お持ちしました」
 二人にコーヒーを置くと、「工藤は出かけますが、俺、下におりますので、何かあったら呼んでください」と言いおいて、良太は会議室を出た。
「お前、秋山から何も聞いていないんだな」
 オフィスに戻ると、工藤は良太に尋ねた。
「いいえ。何か、のっぴきならない案件ですか?」
 すると工藤はフンと鼻で笑う。
「小田のやつ、守秘義務があるとか言いやがって、詳しいことは話さねぇし」
「司法試験通った人間の言うこととは思えない言い草ですけど」
 良太は呆れて言い返す。
「秋山の知り合いが、その、のっぴきならないことに巻き込まれたんで、小田を紹介したんだと。その件で、小田は加藤たちの力を借りたいと言ってきた」
「つまり、武闘派+頭脳派集団の力が必要なくらいヤバい案件ってことですか」
 工藤は眉を顰めた。
「だろうな。俺はこの後秋山に直接話を聞きに行く。お前は、小田たちが帰ったらあがっていいぞ」
「わかりました」
 工藤はしばらく電話で仕事のやり取りをしていたが、やがてオフィスを出て行った。 

 


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