春雷23

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 青山にある秋山のマンションにつくと、工藤はエントランスで部屋番号を押した。
 すぐに秋山がロックを解除し、工藤は十階へと上がる。
「すみません、わざわざ来て頂いて」
 秋山はリビングのソファに工藤を促し、コーヒーを入れながら言った。
「さっき小田が来て加藤と話しているが、小田からはお前が小田を紹介した人が、面倒ごとに巻き込まれている上、身辺が危険だから加藤に警護と調査を頼みたいということくらいしか聞いていない」
 前置きなしに工藤は要点を口にした。
「はい。スキーの時工藤さんも会ったと思いますが、クラスメイトの佐藤さんが、実は姉を通じて連絡してきて、彼女の父親の会社だけでなく彼女自身もトラブルに巻き込まれていると聞いて、内容から小田さんに相談した方がいいと思ったんです」
 秋山はコーヒーを二つ持ってきて、工藤と自分の前に置いた。
「おそらく内容的に俺が昔巻き込まれたトラブルを思い出して、彼女連絡してきたんだと思いますが、先に言っておきますが、俺がこの件に何か関係して、うちの会社に迷惑をかけるようなことはありません」
「そうか」
 きっぱりと話す秋山を見て工藤は頷いた。
「佐藤製作所は地元では知られた企業なんですが、社長である彼女の父親が臥せっていて、今、後継者争いで彼女の夫で専務の佐藤彰吾を押す一派と、取締役で社長の腹心である滝沢昭信を押す派が二分していて。ところが数日前、滝沢が会社の金を横領したことがわかって警察に捕まったので、近々佐藤彰吾が次期社長に就任することになったらしいんですが」
 秋山はそこで言葉を切ってコーヒーを飲んだ。
「佐藤さんからは会社のことやなんかで電話を貰っていたのですが、滝沢が逮捕されてすぐ弁護士を紹介して欲しいというので、小田さんを紹介したんです」
「何か裏があるわけか」
「はい、それが問題は会社のことだけでなく、佐藤さん、夫のDVに悩んでいて、子供もなかったので、今回、思い切って家を出たんですが、夫の彰吾が前々から何かを企んでいたらしく、滝沢の横領も仕組まれたものに違いないと言うので」
 秋山がざっくり説明した内容で、工藤は小田の行動の理由を知った。
「なるほど、それで加藤か」
「ええ、小田先生は彼女を安全な場所に避難させて、なるべくそれとわからないよう警護を付けるつもりなのかと。それと同時に、滝沢の弁護士として横領事件を調査されるのだと思います」
 秋山自身が以前大手商社にいた時、社内でやはり横領の濡れ衣を着せられた際、小田がその濡れ衣を晴らしてくれただけでなく、真犯人を突き止めて警察の鼻を明かしたことがあったが、今回の滝沢の件では、身につまされるものもあったのだ。
「わかった。あとは小田や加藤に任せておくしかないな」
「はい」
 秋山も頷いた。
「アスカにはこの件について何か話したのか?」
「いえ、別に何も」
「そうか」
 では、アスカの微妙な違和感は何か別の理由だろうかと、工藤は思う。
「アスカさんが何か?」
 逆に秋山は聞き返した。
「いや、いいんだ。お姉さんとは連絡を取っているのか?」
 工藤が話を変えると、秋山はちょっと逡巡する。
「ええ、まあ、姉自身もうちを嫌ってさっさと結婚して家を離れた人ですから、ほんのたまに連絡をくれます」
「確か弟がいたな?」
「家の者とは一切連絡を取っていません。弟はいずれ父親の地盤を継いで県議に立つようですが」
「フン、まあほっとけばいいさ」
 工藤は笑い、部屋を見回した。
 三十畳ほどのリビングダイニングに寝室他使っていない洋室が二つある。
 一面は掃き出し窓で眺めもいい。
 花や樹々がデザインされた明るい緑のカーテンは内側のレース地のカーテンと重なっているが、多少経年劣化が見られる。
 寝室もリビングもシックな緑褐色系の色で統一され、壁にはシャガールの大きなリトグラフ、大きなテレビ。
 唯一統一された内装からかけ離れているのが、筋トレマシーンだ。
 それも空いている空間にデンと無造作に置かれていて、タオルが引っ掛けてある。
「生活感がないとか、人のことは言えないが、いい加減越したらどうだ? ここならまだそこそこで売れるだろう」
 秋山は珍しく躊躇した顔で工藤を見た。

 


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