春雷3

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 本来なら簡単に追加はできないだろうが、店によってはやむを得ない場合やVIPなどの急な来店に備えて一人や二人は対応できるようにしている。
 VIPでなくとも良太が竹野と一緒に行ったことで、融通を聞かせてくれたかもしれない。
「ねえ、フレンチで二人きりで食事とか、写真撮られたりして」
 デザートをぺろりと平らげた竹野が面白がって言った。
「俺とじゃ、話題にならないでしょ。接待だってわかり過ぎるし」
 苦笑する良太に、「何よ、ちょっとは焦ってみたりしたらどうなのよ」などと竹野は文句を言っていたが、千雪と対談できたことであの時の竹野は終始機嫌がよかった。
 先日、今のドラマの原作者である小林千雪との対談のあとで、主演の大澤や端田、小林千雪にも声を掛けたのだが都合がつかず、二人だけの食事となった。
 竹野のマネージャー佐田を誘ったが丁重に断りを入れられ、食事のあとは、ワインを結構飲んで酔った竹野を良太がマンションまで送り届けたのだ。
「OKだって。ここから歩いて五分くらいだから」
 良太は二人を促して歩き出した。
「本宮さんも亜弓と同じ学校なんですか?」
 当たり障りのないことから良太は聞いてみた。
 品川のカンファレンスセンターで教員のための研修が今日明日開催され、亜弓はそれに参加すると言っていた。
「いや、静岡市内にある高校に勤務しております。亜弓さんとは、前回開催された研修でたまたま知り会いまして」
 それで付き合うようになったってことか。
 良太はその後の言葉を勝手に埋める。
「うわ、ここ知ってる! 五つ星レストランじゃない?」
 Blancという名前の通り、外装も内装も白を基調としたシンプルな造りで、テーブルや椅子も非常にシンプルなデザインだ。
「お兄ちゃん、大丈夫なの? ここ高いでしょ?」
 店に入る前に亜弓が良太にこそっと耳打ちした。
「たまには任せとけって」
 三人が中に入ると、メートルドテルの岩崎がすぐにやってきた。
「広瀬様、本日はご来店ありがとうございます」
「すみません、急に追加をお願いして」
「いえ、大丈夫です。どうぞ、お席にご案内いたします」
 テーブルに案内されると、メニューを開きながら、良太はあらためて向かいに座った二人を見た。
 身びいきだけでなく亜弓は美人に磨きがかかったように思うが、化粧や整形で作られたものではなく、ナチュラルで内側から滲み出てくる表情がきれいなのだ。
 それに、この本宮という男も表情がいいし、亜弓の相手としてケチをつけるところはない。
 もちろん、今のところはだが。
「何? お兄ちゃん、まるでお得意様みたいじゃない?」
 亜弓が言った。
「こないだ接待でここ使ったからだよ。仕事の役得?」
「ふうん」
 偶然同じ大学だったのだと、亜弓は本宮のことを説明した。
 学部が違ったし、本宮が二学年上だったからお互い知らなかったのだらしい。
 今回は、いじめや多様性への対応などに関するテーマでシンポジウムやパネルディスカッション、講演会があったのだと本宮が説明した。
「俺は数学を教えていますが、うちは男子校なのでうるさいばっかですよ」
 本宮は私立の高校出身で、母校の教師をしているという。
「中学だってうるさいわよ。でも面倒なのがモンペよね」
 亜弓は公立の中学に勤務しているが、生徒ももちろんだが、問題は親なのだと以前話していた。
 そういう親はモンスターペアレンツと呼ばれている。
「いやあ、モンペにはうちもほとほと手を焼いてる。すげえのがいるし、うちはもう俺が高校ん時から」
 教員の世界も大変なのだとは、亜弓の話から良太も初めて知った。
「どこの世界にも厄介ごとはありますよね」
 しみじみと言った良太に、「いやあ、芸能界とか、そういう世界は、もっと大変ですよね、きっと」と本宮が言った。
「まあ、何と言うか魑魅魍魎が闊歩する世界と言うか」
 良太は軽く茶化して言った。
「ほんと、大変そうですね」
 本宮は心配そうな顔になった。

 


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