春雷6

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「あ、妹の亜弓と友人の本宮さんです。こちら俳優の山内ひとみさんとディレクターの下柳さんです」
 良太が二人をひとみたちに紹介すると、「あら、妹さん? 新人女優さんかと思ったわ。初めまして、山内です」とひとみが二人ににっこりと微笑んだ。
「へえ、妹さんか。良太ちゃんにはいつも世話になってます。下柳です」
 亜弓と本宮はいきなり大女優と誰だかわからないが業界関係者らしい男の出現に「こちらこそ、兄がお世話になっております」と立ち上がる。
「二人は教員の研修で東京に来てるんです」
「まあ、そうなの。良太ちゃん、ちゃんと妹さん孝行してあげてえらいわね、ごゆっくり。またね」
 良太が軽く会釈をすると二人はレストランを出て行った。
 二人が親しいことは知っているが、こんなレストランにひとみと下柳とというのは珍しいなと良太はちょっと思う。
「あの、髭の人はどういう人?」
 亜弓が聞いた。
「下柳さんはうちの社長と同じ元MBCの社員で今はフリーのディレクターなんだ。レッドデータアニマルズやった人だよ」
「え、ウソ、あの人が? ええ、もっとお話し聞きたかった」
 レッドデータアニマルズはビデオに撮って何度も観ているというくらい、亜弓は動物関連の映画やドラマには目がないのだ。
「またそのうち、機会があったらね」
「いやあ、本物、やっぱすごい美人ですよね、山内ひとみ」
 本宮はひとみの方に感心しきりのようだ。
「肌きれいよねえ、でも私のこと新人女優かと思ったって」
 亜弓が嬉々として言う。
「社交辞令みたいなもんだよ」
「あのね、いくらほんとのことでもちょっとはオブラートに包むとかしたら? お兄ちゃんてお世辞の一つも言えないで、よく芸能界なんかで生きて行けるわね」
 サラリと答える良太に、亜弓が食って掛かる。
「お世辞とか無理なんだよな、俺。でもうちの社長みたいに、ボロクソに言うようなことはしないし」
「ふーん」
 コーヒーが済むと、良太はそろそろ行こうかと立ち上がった。
 良太としては大きめの出費だが、ひとみの言葉ではないが、妹のためならたまには惜しくはない。
「え、まだ会計は済んでませんけど」
 先にレジで精算しようとした良太は、スタッフにもういただいておりますと言われて、不思議そうに聞き返した。
「どうかしたの?」
 コートを受け取ってやってきた亜弓が聞いた。
「先ほど山内様が、広瀬様の分もとおっしゃって」
 良太はそれを聞いて、しまった、と思う。
 あーあ、ひとみならやりかねない。
 また、お礼しとかないと。
「車を取ってくるから、ちょっと待ってて」
 二人を店内に待たせておいて良太はレストランを出て車を置いている駐車場へと向かう。
「あ、どう? そっちは。え、まだ終わってないのか?」
 歩きながら森村を呼びだすと、撮影がようやく最後のテイクだという。
「もうこんな暗くなってんのに?」
「何かついでに、別のシーンも追加したみたいで。あ、でも大丈夫です。今のところ滞りなく進んでますから、ご心配なく」
 どうしようかと思ったが、何かあったら連絡をしてくれるように森村に言うと、良太は車をレストランへと走らせた。
「びっくり、山内ひとみがどうして支払いしてくれるの?」
 赤信号で止まった時、後部座席から亜弓が聞いた。
「大物は太っ腹なんだって。俺なんか下っ端だから、何かしてやりたくなるんだよ」
「でも、誰でもってわけじゃないよね?」
「ひとみさん、うちの社長とも懇意にしてるからだよ。ヤギさん、ああ、下柳さんと三人昔からつるんでるみたいだし」
 本宮はひとみのことより、いい車ですね、と興味の対象が変わっていた。
「広瀬さんの車ですか?」
「まさか。社用車です」
 厳密に言えば社用車ではないが、工藤の車だと言うとまた亜弓に突っ込まれそうなので良太は無難な言葉を使う。
 まず本宮を品川のビジネスホテルに送り届けた。
「今夜はありがとうございました」
 本宮は良太の中での印象は最後まで爽やかイケメンだった。

 


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