春雷7

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「じゃあ、明日また」
「おやすみなさい」
 本宮と亜弓もそんなやり取りをしている。
「ホテルは一緒じゃないのか? 本宮さんと」
 会社に向かう道すがら、良太は後部座席の亜弓に聞いた。
「あたしたちまだそういうんじゃないわよ。明日は今日の続きの講演会があるから、その後ちょっと二人でブラついて一緒に帰るけど」
「あ、そう」
 そうなんだ、教員ということもあるのか、二人とも節度をわきまえているようだ。
「で、本宮さん、どう思う?」
 亜弓があらためて聞いた。
「ん? いい感じの人だと思うけど」
「え、それだけ?」
「ちょっと話したくらいじゃ、それ以上わからないよ。ウソつくタイプじゃないと思うけど、なんか問題抱えるとそれだけになっちゃうみたいな感じもあるかな」
「ああ、そうねえ、でも、例えばの話、結婚したら豹変してモラハラになるとかってタイプじゃないよね?」
「ナニソレ? そんなこと心配してんの?」
 思ってもいなかった亜弓の問いに、良太は聞き返す。
「よくある話じゃない」
「でもそれはなあ、さすがにわかんないなあ」
 確かにDVでひどい目にあったという女性の話は多々あるが。
「なあによ、呑気ね。大事な妹の人生変わるかも知れないって時に」
 不服そうに亜弓が口を尖らせた。
「そんなこと言われても。母さんたちにはもう紹介したのか?」
「まだ、そんな段階じゃないし」
「あいつが変なヤツだったら、俺がぶっ飛ばしてやるから」
 良太の言葉に亜弓は大きな溜息をつくだけだった。
 そんなことを話しているうちに、車は会社に着いた。
 良太は駐車場に車を入れると、亜弓とともにエレベーターで部屋に上がる。
「きゃあ、ナータン、わ、可愛い、ちびちゃん!」
 ドアを開けるなり、まとわりついてきた二匹は亜弓にも物おじせず、ナアナアと鳴く。
 亜弓がチビを抱き上げたので、良太がナータンを抱いて例のドアを気にしながら中に入ると、ようやく内装の変化に気づいて亜弓が声を上げた。
「何? 前来た時とは雲泥の差じゃない! うわ、すごいシステムキッチン!」
「ここは会社の持ち物だから、平造さんがたまにリノベとかするんだよ」
 平造が内装をやったことは確かとはいえ、もともとは工藤に指示されたからではあるが。
「うわ、食洗機も、オーブンもある! お兄ちゃんには宝の持ち腐れだよね!」
 チビを抱いたまま、亜弓は勝手にキッチンを物色する。
「うわ、これ、ソレイユのお鍋だわ え、これってタイバスの食器セットじゃない?」
 洗って置いてあるフライパンやいつも使っているカップなどを見て、亜弓が言った。 
「え、何? それってブランド?」
 良太はカリカリを猫たちの器に入れると、顔を上げた。
 カリカリの音に亜弓の腕からチビも飛び降りる。
「やだ、知らないで普段使いしてるの? 北欧の有名ブランドだよ? そこそこ高級なんだよ、これ」
「うわあ、そういうこと言われると、使えなくなるじゃん。平造さん、そういうの気にしないで選ぶから。軽井沢の別荘なんか、それこそ高級ブランドだろうが普段使いしてるって、アスカさんが言ってたしな」
 内装を変えろと言ったのは工藤だろうが、具体的に淡いブルーと明るいグリーンを基調とした内装は平造が指定したものだ。
 猫たちがはぐはぐとご飯タイムになると、良太はコーヒーをセットしてさっき亜弓が羨ましそうに見ていたカップを棚から取り出した。
 亜弓は炬燵に座ってテレビをつけ、既にまったりとしている。
「何か、いい部屋ねえ、天井高いし、お兄ちゃんにはもったいないような部屋だけど、やっぱお兄ちゃんによく合ってるって感じ?」
「わけわからないこと言ってんな」
「だって、炬燵がこの部屋に馴染んでるのが不思議」
「やっぱ冬は炬燵ないと、俺も猫たちも」
 ジャージに着替えると、良太は亜弓の前にコーヒーを置き、自分はマグカップにコーヒーを持って来て亜弓の向かいに座る。
「本宮さん、いい人そうじゃん。まあ、まだ付き合い始めたばっかなんだろ?」
 すると亜弓は、「うん……」と何か引っ掛かりのありそうな顔をして大きく溜息をついた。

 


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