花の宴1

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「前線の影響で、関東全域では明日は朝から雨、一日中断続的に降り続き、桜にとってはどうやら「花散らしの雨」となりそうです」
 FM局のキャスターが告げる予報に、MBCテレビから外堀通りへと車を走らせる良太は、あ~あ、と口にする。
「どうした?」
 良太のいかにも残念そうな声に、後部座席で電話を終えた工藤が良太に聞いた。
「えー、だって、せっかくの花が散っちゃいますよ、きっと」
「それが自然の生業だ」
 にべもなく返されて、「ちぇ、情緒もヘッタクレもないんだから」と良太はボソッと呟く。
「何だと?」
「いや、別に。やっぱお花見、今夜決行で正解だなー」
 ちょうど工藤の携帯が鳴ったのでこれ幸いと良太はハンドルを切る。
 言いだしっぺはアスカだ。
「ねえ、お花見するんなら今夜!」
 珍しく午前中に青山プロダクションのオフィスに顔を見せた所属俳優中川アスカは、以前からお花見お花見と騒いでいた。
「人気女優が公衆の面前で、醜態をさらすなよ」
 雑誌の撮影に同行する嘱託カメラマンの俊一がバッサリアスカの言葉を斬って捨てる。
「うるさい! ここでやるの!」
「ここ?」
 良太はなるほどー、と裏側の窓から外を見る。
 乃木坂にある青山プロダクション。
 元キー局の敏腕プロデューサーとして名を馳せた工藤高広が興した会社で、ドラマや映画制作と所属する俳優陣のマネジメント等が主な業務である。
 このビルには、建設当時、工藤のご意見番平造がぜひにと主張して造られたというちょっとした裏庭がある。
 そこに植えられた数本の桜の木が年々なかなかの花を咲かせるようになってきたのだ。
 今年は結構華やかに目を楽しませてくれている。
「いいわねー、それじゃ、いろいろ準備しなくちゃ」
 鈴木さんも既に大乗り気ではしゃぎ出すし、急遽、午後七時半、青山プロダクション花見の会開催となった。
 窓越しに桜並木を見やると、満開の桜を愛でようとあちこちそぞろ歩く人の影がある。
 お花見しようよ、と高校時代の野球部マネージャーで元カノのかおりからも良太に先週電話があった。
 その前には関西タイガースの人気スラッガー沢村が、「俺が3号打ったら、花見しようぜ、『桜野球少年会』で」などと携帯にわざわざかけてきた。
 沢村と良太とはリトルリーグの頃からの腐れ縁だ。
 『桜野球少年会』って何だ、と良太が聞くと、クラブチーム発足のためのプレチームだなど沢村は勝手なことを言う。
 メンバーは四人、当然沢村とかおり、やはり高校時代の野球部キャッチャー肇にピッチャーだった良太である。
 だが、この分だと雨が降ったあとでは花見は無理だな。
 どうせまあ、花、は名目上、飲みたいだけなのだ、やつらは。
「野間さんとの打ち合わせは明後日になった。高輪にやってくれ」
 携帯を切った工藤が言った。
「え、ドタキャン? どうしたんですか? 野間さん、あんなに張り切って飲むぞとか言ってたのに」
 大手出版社集洋社の野間と工藤は数年来のつきあいである。
 一昨年人気男性誌月間『パイオニア』の編集長に就任し、小笠原裕二が旅のコラムを連載しているが、これが結構受けているというので手を加えてムックとして出すことになった。
 その打ち合わせだったのだが。
「痛風が悪化したんだと」
「げ、そうなんだ。あの人グルメだもんなー」
 良太も一、二度会ったことがある。
 少々太めだが穏やかそうな人だ。
「あ、じゃあ、もう予定入ってないってことでしょ。今夜の花見、行きましょうよ。八時前か、今頃始まってるな」
 そう言ったかと思うと、良太は会社へと車を走らせる。
「良太、遅くなってもいいから、工藤さんも連れてきてよね」
 というのがアスカからのお達しなのだ。
「おい、良太、たまには俺も休みたいんだ」
 工藤にしては珍しい発言だ。


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