「会社のお花見に社長が顔出さないでどうすんです」
良太は不服そうに言った。
「上司を労わろうって気がないのか」
工藤の文句もさほどきつくはない。
「どっかの宴会に行くんじゃないんだし、社内の人間だけなんだからいいじゃないですか」
むっとした顔で腕組みをしている工藤がバックミラーに写る。
いつでも立ち去れるようなスタンディングのパーティならまだいいが、実は工藤は宴会が嫌いなのだ。
親しい間ならまだしも、仕事なら極力避けたい。
花見の宴なんぞ金輪際嫌だと、取引先からのお誘いは今回もいろいろあったが、良太に、酒や弁当を差し入れておけ、とこうだ。
基本的に工藤は人と群れるより一人で動く。
それは子供のときからの習性のようなもので、今更変えられるものでもない。
さらに、工藤の中には桜にまつわる古い記憶がこの時期心の奥底に見え隠れすることがあった。
「アスカさん張り切ってたから、野外パーティみたいになってるんじゃないですか?」
「右後ろにマンションあっただろうが。騒ぐとこじゃないんだぞ」
「工藤さん、そう言ってやってくださいよ」
間もなく車は乃木坂の青山プロダクションビルに着いた。
駐車場に車を置いてエントランスに立つと、裏の方から案の定賑やかな声が聞こえる。
「うわ、きれいじゃん!」
裏庭へのドアを開けた良太は、不承不承ついてきた工藤を手招きする。
「あ、お帰りなさーい」
アスカや奈々、鈴木さんに秋山、谷川と、所属俳優やマネージャーらがライトアップされた桜の下で酒盛りを始めていた。
「すげぇ、ちゃんとライトアップしてる」
「まかせろよ」
思わず声を上げた良太に、嘱託カメラマン俊一がえらそうに言う。
俊一が庭園灯の他に照明器具をうまく枝につないで、花を優雅に見せている。
十坪ほどの庭で三本の桜の他に木蓮やカイドウ、椿や薔薇などが四季ごとにさりげなく目を楽しませてくれている。
軽井沢に住む平造がいつとはなくやってきて手入れをして帰っていくのだ。
「豪華じゃん!」
いつもはリラクゼーションルームの倉庫で眠っている野外用のテーブルや折りたたみの椅子などが隅にセッティングされ、テーブルの上には寿司やピザ、サンドイッチやハム、ソーセージやチーズ、フリットやマリネ、オリーブなどケータリングのフィンガーフードが大皿に盛りつけられ、ワインにビールに日本酒が所狭しと並んでいる。
「どうぞどうぞ、遠慮なく召し上がれ」
早速、良太はビールと寿司やらピザやらをのせた皿を鈴木さんからもらう。
「社長、んな怖い顔してると、花が嫌がって散っちゃいますぜ!」
俊一はまだ難しい顔を崩さない工藤に勝手にグラスを持たせて、ビールを注ぐ。
「……でさ、これ誰が後片づけすんだよ」
ふと嫌な予感がした良太が、一人呟く。
パーティ用のグラスや皿も、レセプションルームの倉庫から持ち出したものだ。
「そりゃもちろん、準備しなかったヤツ、な」
ぽん、と俊一が良太の肩を叩く。
「んだとぉ、紙皿とか紙コップとかにすればいいじゃん!」
「だってぇ、花に失礼じゃない」
しれっとアスカがのたまう。
はあ、と良太は一つため息をつく。
午前中は晴れていて温かかったが、徐々に雲が広がり、夜になるとぐんと冷えてきた。
それを見越してか、ちゃんと野外用のストーブまで用意されている。
「やってるやってる!」
騒ぎながらやってきたのはマネージャーの真中を従えたやはり所属俳優小笠原祐二だ。
「ドンペリだぜ~!」
「おお、いいじゃんいいじゃん」
小笠原からドンペリのボトルを受け取ると、俊一が早速コルクをポンと抜く。
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