花の宴3

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「工藤さん、無理やり連れてこられたって顔してますよ」
 秋山が腕組みをして突っ立っている工藤に言った。
「俺は今夜はゆっくり部屋で過ごす予定だったんだ」
「いいじゃないですか。花はきれいだし」
 工藤はこぼれそうに咲き誇った花をあらためて見上げる。
「花は……きれいだが……」
 この季節は好きじゃない。
「え?」
「いや……」
 僅かな感傷を散らしたのは、良太の携帯から流れる関西タイガースの応援歌だ。
「え、何だって? ホームラン? 見てないよ、仕事だったし」
 電話をしてきたのは関西タイガースの四番打者沢村である。
 ホームラン三号を打ったから、これから花見をしようというのだ。
「花見? 今夜はちょっと無理だよ……」
「明日の雨で花なんか散るぞ、今夜じゃないと」
「いや、それが、今、うちの会社の花見でさ…」
 と、いきなり隣から手がのびて、良太の携帯をアスカが取り上げた。
「こっちにいらっしゃいよ、お花見ならここでやってるから」
「ちょ、アスカさん!」
 携帯を取り戻そうとする良太の手を押し戻して、「ああ、会社の裏庭、無礼講だからどうぞ」と勝手に切ってしまう。
「アスカさ~ん、勝手にもう、酔ってるな~」
「いいじゃない、お友達でしょ?」
「いや、でもなーーー」
 ちらっと工藤を見る。
「他にもまだくるから、平気よ、一人や二人増えたって」
「そういう問題じゃ……」
 沢村とのことですったもんだあったのは昨年暮れのことだが、良太としてはあまり工藤と沢村に面と向って会ってほしくないところなのだ。
「どうしたんだ?」
 工藤が声をかける。
「え、いや、沢村が……花見しようって……」
 仕方なく正直に話す。
「フン、お友達なら呼べばいいだろう」
 その言い方に、良太は少々カチンとくる。
「もう、勝手に呼んじゃいましたよ、アスカさんが」
「何、沢村って関西タイガースの? 今日はジャイアンツ戦でホームラン打ったな」
 秋山が口を挟む。
「ええ、三号打ったら花見しようって、もううるさくって」
「そりゃ、祝杯あげないと」
「秋山さん……面白がってるし」
 良太は恨みがましい目で秋山を見やる。
 昨年末の、良太が沢村の会社に引き抜かれる云々のすったもんだは、会社関係者みんなが知るところだ。
「まあ、いいじゃない、もう済んだことだし、良太の友達なんだから」
 秋山は笑う。
 その時、ドアが開いた。
 もう来たのか、と良太が振り返ると下柳がよう、と手を挙げた。
「何だ、お前らまで」
 工藤は益々眉間の皺を深める。
「何だとは何よぉ、こんな楽しいこと、自分だけでやろうなんて。あら、良太ちゃん、久しぶりぃ」
 妖艶な笑顔で下柳の後ろから現れたのは、一癖も二癖もありすぎな大女優だ。
「ひとみさん……どうも……」
 何つうメンツだ、と良太が心の中でため息をついたのがわかったかのように、山内ひとみのマネージャーの須永が、「すみません、押しかけちゃって」と申し訳なさそうに頭を下げる。
「昼にたまたま事務所寄ったら、今夜花見やるってからなぁ」
 下柳が嬉しそうに鈴木さんから日本酒を注いでもらう。
「きれいじゃないか、うん、さすが、平さんの桜だ、見事なもんだ」
「やーね、ヤギちゃん、ジジムサイ~」
 歯に衣着せぬもの言いでひとみが笑う。
「あ、差し入れね、コルトン・シャルルマーニュとシャンベルタン、それから赤のスプマンテ、美味しいのよ」
「わ、ありがとー、ひとみさん、さっそく開けよ」
「何もこんな猫の額みたいなとこにこなくても、桜見たけりゃ上野でも千鳥ヶ淵でも行けよ」
 アスカが喜んでボトルを受け取るのを横目に、工藤がボソッと口にする。
「相変わらず不景気な顔してるわね、高広。桜は楽しく見るのがいいのよ」
「飲む、の間違いだろ」
「当たり前でしょ、飲むんだって、楽しい方がいいに決まってるじゃない。それより、珍しいじゃない、桜、好きじゃないんじゃなかった?」
 微妙な言い回しで、ひとみが言った。

 


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