ひとみのストレートのきれいな黒髪が肩に流れ、胸元の大きくあいた黒のドレスに長いストールをさりげなく羽織っている。
「余計なお世話だ、お前ら仕事はいいのか、仕事は」
「ヤギちゃんにお花見やるってきいたから、早めに切り上げてもらったのよ」
簡単そうに言うひとみに、工藤は周囲のスタッフの苦労が目に浮かぶ。
「工藤さん、桜、嫌いなんですか? こんなきれいなのに」
何気なく聞こえた台詞が気になって、傍に立っていた良太が口を挟む。
「そうよねー、聞いてあげて、高広ってば、センチメンタルな昔話が趣味なのよ」
工藤が何か言いかけた時、「じゃ、工藤さん、私そろそろ失礼します」と奈々がぺこりと会釈する。
「送ってきます」
父親に門限厳守を言い渡されている奈々の後ろにいた谷川が奈々を伴って開いたままの玄関フロアへのドアをくぐる。
「谷川ちゃん、ちゃんと、戻っておいでよ、谷川ちゃんの分、とっておくからぁ」
谷川の背中にアスカが声をかける。
「元デカさんも、アスカにかかっちゃかたなしだな」
俊一がグラスを玩びながら呟いた。
「だって、谷川ちゃんってば、絶対飲まないのよ、運転するからって」
「それが当り前なんだ」
秋山がアスカをたしなめる。
「あの人、堅いよなー、あんま笑わねーし」
次、日本酒行こう、と俊一と競い合っている小笠原が言った。
「あ、やっぱここだ、来たぞ~良太」
良太が顔を上げると、一際大きな男がドアの向こうから現れた。
「うお、沢村じゃん」
「ああ、良太、オトモダチ、だったっけ」
小笠原と俊一が口々に言う。
「あ、どーもー、工藤さん、お言葉に甘えまして、お邪魔します」
「こんばんは」
「ども、お邪魔します」
上機嫌でやってきた沢村の後ろから顔を出したのは、かおりと肇だ。
「あれ、お前らも一緒?」
良太は驚いた。
「沢村っちから、良太くん、お花見やるから来いっていってるって。あ、これ、私たちから差し入れです」
「あら、ありがとう、わ、おいしそう」
そそくさとアスカが受け取った袋には、チーズやハム、ワインのボトルが入っている。
「おい、良太、いいのか?」
よそいきの笑顔を振りまいているかおりの横で、肇は怪訝そうな顔で良太を見た。
「あ、ああ、あの、俺の高校ン時の同級生で、水野かおりと飯島肇です」
良太が二人を紹介する。
「おい、俺は?」
沢村が要求するので、「沢村です」と仕方なく付け加える。
「美人なら、大歓迎、どうぞどうぞ」
調子のいい小笠原がかおりを手招きする。
「さっきの、アスカさんだったんだ? 携帯」
沢村も妙にテンションが高い。
「二人は同級生で、どうして沢村がいるわけ?」
アスカが思ったままを口にする。
「いや、俺って良太からするとライバルだったらしくて」
「何よ、そのライバルだったらしいって」
アスカが聞き返した。
「うっせーぞ、沢村、三振とったことだってあるんだからな!」
聞きつけて良太が割り込む。
「そ、俺たち四人、『桜野球少年会』」
沢村が良太の肩に腕を回す。
「勝手につけてんなって」
「何せ、リトルリーグからのつきあいだから」
アスカに沢村が説明するのを良太が訂正する横で、小笠原と俊一がかおりや肇に良太のことを聞きだしていた。
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