そのようすをしげしげと眺めていたひとみが、「どういうことよ」と工藤の腕を小突く。
「どういうも、そういうことだ」
「俺も聞きてーな」
いつの間にか後ろにやってきた下柳が言った。
「何で、今まで隠してたんだ? あれが何で小林千雪だ? 以前俺が会ったのは、確かだっせーオッサンだったぞ。あん時の先生は偽者か?」
「別に俺が隠してたわけじゃない」
苦々しく工藤は言い捨てる。
何でこういうことになるんだ、と言いたいのは工藤の方だった。
沢村には挑戦的な視線を送られる、小笠原はガンを飛ばす、京助に至っては当然のように敵意むき出しだ、加えてひとみは、何やらもの言いたそうな顔で睨みつける。
やっぱり花見なんか、顔を出すんじゃなかった、というのが、いささか後ろ向きな工藤の内心なのだ。
「まさか、本当に昔話にセンチメンタルしてるとは思わなかったわ、高広」
さらにひとみが痛くもない腹をつつく。
「何がだ」
工藤は苦々しい声をようやく絞り出す。
「前に紹介された時は、こんなに似合わない名前はないと思ったけど、ふたを開けてみればあーんな超美少年」
「何が少年だ、T大の先生だぞ」
随分前になるがちょうど千雪の小説を映画化するしないの時、軽井沢の『カンパネッラ』で千雪と食事をしていた時、偶然ロケで来ていたひとみと顔を合わせたのだ。
「ごまかさないでよ。私が忘れたと思ってるの? で、良太ちゃんは知ってるの?」
「何をだ」
工藤が煙草をくわえた時、良太がパイを載せた皿をひとみに持ってきた。
「めっちゃ美味いですよ、イチゴパイ、京助さんが焼いたそうですよ」
「あら、ほんと、美味しそう」
「見かけによらずですよねー、パイ焼ける人には見えないもんな」
感心する良太にひとみが笑う。
「ほーんと、仏頂面でも高広よりはマシよねー、なーんにもできないもんねー、高広」
「いやあ、俺も何にもできないですよ」
良太はえへへと笑う。
「あら、良太ちゃんはいいのよー、作ってあげたいって人はいっぱいいるわよ」
ひとみのにっこりは結構曲者だ、と良太は思う。
「元カノ、どうなの? ヤケボックイに火をつけちゃえば?」
わざとらしく、工藤に聞こえるようにひとみが言った。
「ちょ、やめてくださいよ」
「んもう、良太ちゃんってば、健気なんだから」
バン、とひとみは、あわわと焦る良太の背中を叩く。
「ひとみさん、もうできあがっちゃったんですか?」
隅っこで、真中や俊一とひっそり飲んでいた須永がひとみを気遣った。
「驚いたね、いつものメガネとか、あれ、名探偵の変装?」
いつの間にか千雪の傍にやってきた下柳は、千雪に単刀直入に切り出した。
「はあ、ガキの頃から女みたいや言うて、からかわれよりまして、じゃまくそうて、大学デビューで変身したったんです」
千雪はしれっと言った。
「はああ、いろいろ苦労があったわけやね」
「いや、これがまた周囲の反応がおもろいのなんの、ちょっとやそっとではやめられへん」
千雪はふっといたずらっぽく笑う。
「なるほど………しかし、びびるなー、いきなりこんな美人に変身されると。で、次回作はもうクランクイン間近で…」
そこへ秋山も加わって、やおら仕事モードに入っている千雪と下柳を工藤の横でひとみが斜に見つめている。
やっぱそりゃ、驚くよな、良太はそんなひとみを見て心の中で呟いた。
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