笑顔をください31

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「すごいじゃん、七海、カッコいい! ピアニストになれば?」
 興奮した声で勝浩が賞賛する。
「バカ言え。あんなの譜面どおりに弾いただけだ。専門家が聴けばすぐ化けの皮がはがれるさ」
「でもすごい」
 二人のやりとりを後ろに聞きながら、握り締めていた自分の拳が震えているのに、志央は気づいた。
 途方もなく重い絶望感。
 こうなったら、徹底的に嫌われるまでだな。
 志央は一層自虐的なことを考えながら、進行役としての務めを果たすべく、ステージの中央に出て行った。
 
  

 創立祭を境に椿事が起きた。
 学園内の七海のにわかファンの女の子がおおっぴらに七海を取り合うようになり、互いに牽制しあい、一躍七海はアイドル扱いだ。
 醜いアヒルの子が白鳥になったかのごとく変貌した七海からは、もう志央の部屋のキッチンで照れくさそうにオムライスを作ってくれた七海を見つけることはできなかった。
 迷惑を被っているのは勝浩かもしれない。
 人数は少なくても女の子の圧力はすごいのだ。
 それは生徒会にも飛び火した。
 七海が廊下でいつものごとく、マンガかなんかを読みながら勝浩を待っていると、そこまで女の子がやってくるのだ。
「すんげー人気者になっちまったな。七海のやつ。堺も大変だな」
 志央が勝浩を揶揄する。
「なーにが、さんざんお人よしの七海のこと、都合よくあしらってたくせに、今さら何言ったって遅いですよ。あなたみたいな汚い人に、あんな純粋な七海が合うわけがないんだから」
「堺くん。君こそ可愛い顔をして、言ってくれるね」
 何気に口にした勝浩の言葉は、クールに言い返したかに見える志央の心臓をぐさりと直撃する。
「ったく、うるさいっ!」
 きゃらきゃら聞こえる女の子の声に、イライラしながら志央は立ち上がり、ドアを勢いよく開け放つ。
「ここは生徒会室だ。用がないなら帰れ!」
 さすがに女の子たちも志央の怒りに首を竦め、すごすごと退散する。
「お前も、」と今度は七海に向かう。
「入って待っていればいいだろう? 忠実な姫君のナイトのおかげでここんとこうるさくて仕方がない」
「…すみません…」
 表情も変えずに謝罪の言葉を口にすると、「勝浩、俺、図書館にいるから。携帯で連絡くれ」と七海は中にいる勝浩に声をかける。
「OK、七海、わかった」
 志央に頭を下げ、七海は生徒会室を後にした。
 仲の良さを見せつけるような二人のやりとり。
 しかもいつの間にか、七海、勝浩と呼び合っている。
 体の奥から湧き上がってくる凄まじいくらいの嫉妬を、志央はどうすることもできない。
 あたりまえか。
 俺は七海を騙した悪党で、そんなやつに俺だって遠慮するわけはない。
 自嘲しつつ、次の面倒な行事をこなすべく、志央はノートパソコンに向かう。
「城島さん、総会の資料の印刷、明日中に終えますから、あさっては製本にかかれます」
 勝浩は自分のノートパソコンから、プリントアウトし始めている。
「明日中といっても、俺と幸也は明日はY高校で生徒会交流会があるし、できないぞ」
「大丈夫です。七海が手伝ってくれることになってますから」
 何だか勝ち誇ったような言い方だ。
「へえ…印刷室で二人きりで? ちゃんと仕事できるのか?」
「城島さんたちと一緒にしないで下さい。あんなとこで何するって言うんです?」
 からかう志央に勝浩はしっかり切り返す。

 


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