「うぎえーーーっ、なんじゃ、こりゃあ!!」
乃木にある青山プロダクションの静かなオフィスに無粋な喚き声が響き渡ったのは、桃の節句も過ぎて、時折強烈な春の嵐に見舞われながらも暖かな日差しが混じるようになった三月も始めのことである。
「ちょっとぉ、うるさいわよ、良太。大きな声出さないでくれる? ただでさえ朝早くたたき起こされて頭に響くんだから」
常人ならちょっと早いお昼というところだろうが、ここ青山プロダクションの看板俳優である中川アスカは窓辺の大きなソファに陣取り、ブランチ用のサンドイッチを片手に品よく紅茶をすすると、眉を顰めた。
「だって、どういうことだよ、何だよこれ、冗談も程ほどに……!」
今日発売の写真週刊誌をバシバシ叩きながら、広瀬良太は尚も声を上げた。
「あたしに言ったってしょうがないじゃない」
珍しく会社の始業間もなく現れたアスカから、何の説明もなく、ハイ、これ、と渡された。
何だろう、もしやまた工藤が誰かとツーショットでも撮られたのだろうか、と、興味津々、反面ドキドキしながら半分くらいページを繰ったところで、良太はそれを見つけたのだ。
「良太もいよいよ、二代目工藤高広ってとこかな」
「ちょ……秋山さんまで、いい加減にしてくださいよぉ……」
ソーサーごとカップを持ったままアスカの横に立っているマネージャー秋山の笑いを含んだ声に、良太はガックリ肩を落とす。
「まあ、可愛く写ってるじゃない、良太ちゃん」
いつの間にか良太の手から雑誌を取り上げてしげしげと眺めた、実はこの会社の影の主ともいえる鈴木さんが、ほほほ、と笑う。
「うう……鈴木さんまで……いったい、全体、何が、何で………」
「文章になってないわよ。ちょっと可愛いしね、市川美由、明るくて元気で。最近仲いいみたいね。良太にしちゃ、上出来な子つかまえたじゃない」
アスカは言いながら、残りのサンドイッチをぺろりと平らげた。
「だからぁ、彼女と俺は別に何にも………あーーっ、どうしよ、こんなの見たら亜弓のやつまた何か絶対言ってくるし、肇とかも……うう、どうしよ………」
ぶつぶつと口にしながら仕事も手につかず、良太は一人ただただうろたえる。
よもや、自分が写真雑誌のターゲットになろうなどとは、夢にも思わなかった。
いや、この場合、人気アナウンサーの市川美由がターゲットなのだが。
二人ともしっかり顔がわかるように撮られている。
いかにも仲が良さそうに、しかも夜、車から降りたところを狙われたらしい。
良太がまがりなりにもプロデューサーとして名を連ねているスポーツ情報番組「パワスポ」で時折レポートをするようになった美由はT大出身で、良太には一応後輩にあたる。
それがきっかけで話が弾み、おまけに彼女はかなりのスポーツオタクでいろいろとよく知っているし、何より、良太が在学中野球部のエースだったという古い事実まで持ち出してきたことで、顔をあわせれば最近二人は野球を中心にスポーツの話で盛り上がっているのだ。
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