ACT 4
部屋のドアを開けた途端、二匹の猫たちがわらわらと良太目掛けて飛んでくる。
「遅くなったねー、ごめんよー」
足にまとわりつく猫たちに触れると、こわばっていた身体の力が抜ける。
二匹とも待ってましたとばかりにご飯を平らげてしまう。
その食べっぷりはいつみても可愛いものだ。
「そういや、俺もなんか腹減った」
いろいろと思いが交錯して腹に詰まったような気分だったために、空腹なのを忘れていたらしい。
スーツを脱ぎ棄てて、傍にあったジーンズとセーターに着替えると近くのコンビニに向かう。
雨のせいでじっとりと湿気に包まれる。
弁当を食べる気になれず、おにぎりを二つとビールを買って帰りしな、工藤と下柳がぼそぼそ話していたのを思い出し、何やら気になった。
「アイダが、とかって聞こえたけど」
深刻そうな顔をしていた。
「アイダって相田企画のことじゃないよな」
相田企画はやはり二人とは長いつきあいのイベント会社である。
相田夫妻と五、六人のスタッフがいたはずだ。
「まさかまた猪野プロみたいなこと、ないよな」
口にして、嫌な気分が渦巻いた。
アイダは相田に違いないような気がした。
「仕事上のトラブルくらいならいいけど」
もうあんなのはごめんだ。
猪野の葬儀の時、子供たちの泣きはらした目を思い出すとやりきれない。
おにぎりだけ食べてから風呂に入り、タオルで頭をゴシゴシ擦っている時、玄関のチャイムがたてつづけに何度か鳴った。
真夜中に良太の玄関のチャイムを鳴らすような人間は、一人くらいしか心当たりがない。
「何時だと思ってんだよ、ジャンジャカ鳴らさなくても、鍵開けて入れば……うわ……」
慌ててドアを開けると大きな影が良太に覆いかぶさり、二人して絨毯の上に倒れこんだ。
びゅうと冷たい風が一緒に入ってきて、ようやくドアが閉まる。
「バカヤロ! 確認もしないでドアを開けるんじゃない…」
工藤の怒鳴り声に驚いて、猫たちはさっと隠れてしまった。
「うう、酒臭っさ……えらく飲んでんな……」
こんなに酒に呑まれた工藤をあまりみたことがない。
コートが濡れていて、スウェットに染みて冷たくなってきた。
「おい、ちょ…工藤って、コート、脱げって、冷たい……」
だが男は良太を押しつぶすようにのしかかり、動く気配がない。
「工藤って…」
良太はあきらめた。
こんな大きな男を持ち上げる力は出てこない。
でも何か、やっぱりあったんだな、工藤。
「……くそ…俺は無力だ…」
「え……?」
工藤が漏らした言葉に良太は驚いた。
オレハムリョクダ…?
確かにそう聞こえた。
「ちょっと…寝させろ」
もぞもぞとまた工藤が言った。
「なーにがムリョクだよっ!! あんたがムリョクなら俺はどうすんだよっ!」
天井を睨みつけながら、良太は喚く。
答えはない。
どうやら工藤は本気で寝てしまったらしい。
おそらく睡眠時間もろくに取っていなかったに違いない。
仕方ない。
幸い絨毯はふかふかだし。
―――――戻ってきたから今夜は許してやるか。
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