「ビッグになってから……か」
ビッグになんかなれなくてもいいけど、とりあえずいっぱしのもんになったら、若い頃お世話になりました、とか、言うわけ?
高津の言うとおり、藤堂にとって俺なんか、プロジェクトの一環、くらいなもんなのかもしれない。
このプロジェクトが終わったら次の、ってなもんで。
やあ、悠ちゃん、久しぶりだね、元気?
とかって、いつもの調子で笑うんだろう、藤堂。
その時、藤堂の傍には誰がいるんだろう。
自分の横には?
途方もない寂しさが、ぽつねんと闇の中で身体を起こした悠の周りを囲む。
「いやだ……藤堂………」
一粒の涙が、窓から差し込むかすかな月明かりに呼応してきらりと光った。
一時間あまりのパリからローマへの旅では、アリタリア航空のフライトアテンダントが美人だ美人だ、と高津は騒ぎ、用もないのにブロンドのお姉さんを呼び止め、わけのわからないジェスチャーを披露して失笑を買っていた。
昼前にはパリを出発したものの、空港からホテルにチェックインした頃には既にバチカン美術館は閉館していたので、二人は高津のたてたスケジュールに乗っ取り、コロッセオやスペイン広場などを見てまわり、高津は露店で何でもかんでもこまごまと買いあさった。
悠は時々立ち止まってスケッチしたり、モチーフになりそうなところをデジカメで撮ったりして過ごした。
ところが、ナイフの店に入り込んだ高津に待ってろといわれたものの、路地が面白くてテクテク歩いているうちに、悠は道に迷ってしまった。
「え、高津? どこだよ! 高津!」
あたりは薄暗くなりかけている。
行き交う人の群れに、慣れ親しんだのっぺりとした顔がない。
「高津―――!!」
とその時、『ルパン三世』のテーマ曲が悠のポケットで鳴り響いた。
「高津!? どこにいんだよ!」
電話の向こうでは脱力した高津が『それはこっちのせりふだろ』と言った。
やがて悠の告げた目印になりそうな建物の色を頼りに高津がやってきた。
「これだから、お前は」
大きく嘆息した高津は気持ちを切り替えて、フォカッチャだの、パニーニだのをいくつかと、ワインを数本にチーズなどを買い込み、ホテルで連日の酒盛りとなった。
「悪かったな、迷子のガキで」
ブスくれて悠は高津を睨みつける。
「いいってことよ。どうせ今に始まったこっちゃないし。悠ちゃん、夢中になると周りが見えなくなるもんね」
「るせー!」
確かに幼児要素が強い悠を必要以上に心配するのは藤堂だけではない。
「しっかし、なんだな、ワインは美味いけど、いまいちローマにいるっつう気がしねぇよな。ま、貧乏旅行だし、目的は芸術鑑賞だから」
「俺にかまわず、行きたいとこ行けばいいじゃん」
そんな自分が高津の行動を妨げているようで、悠はついそんなことを口にした。
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