そんなお前が好きだった75

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「しかし今の子はすごいねぇ」
 元気はハハッと笑う。
「紀ちゃんがいたら、ジジクサって言われるぞ」
 東が肩眉をあげて忠告した。
「高校生から見たらオッサンだろ、俺らなんか」
「まあな。それより、俺肝心なこと聞いてないっつうか、荒川先生キョー先生に何言ったんだろ、マイノリティとか差別とかって、生徒がそんな憤慨するようなこと言ったのか、俺も面と向かって聞けなくてさ」
 首を傾げる東に、なるほどね、とまた元気は感心したように頷いた。
「益々できた子たちだねえ、響さんのプライバシーに関わることは口にしてないんだ」
「響さんの? ってお前知ってんの? なんで?」
 東が元気に詰め寄った。
「荒川先生、あからさまに井原に近づくなって言ったらしいぜ? 響さんに」
「はあ?」
 今度は東が怪訝な顔をする。
「こんな田舎で、男同士で、教員同士で、リスクが高いぞって」
「脅しじゃないか」
 東の言葉がきつくなる。
「だから生徒が怒ったんだろーが」
「なんだ、ガッカリだ。明るくてハキハキした美人だと思ってたのに」
 フンと鼻息も荒く、東は言い捨てた。
「井原に告られたのに、荒川センセにそんなこと言われて、響さん、井原にごめんなさいしたって、酔っぱらって俺呼び出されて、泣きつかれた、夕べ」
「はあ? それ知ってたら俺も生徒に加勢したぞ」
 東は鼻息も荒く喚いた。
「俺がやりたかったことを瀬戸川たちがやってくれて、溜飲が下がったわ」
 元気はふふんと笑う。
「けど、肝心なことが解決してないのな」
 ドアがまた開いたので、何気なく二人が顔を向けると、当事者の一人が立っていた。
「元気ぃ………」
 見るからに意気消沈状態で、いつもの陽気さのかけらもないようすでトボトボと井原が入ってきた。
「こないだの、ジャックダニエルズ!」
 井原は元気にそう言うと東の隣に腰を降ろした。
「何をやさぐれてるんだよ、荒川先生の事件のことか?」
「事件? 荒川先生? なんだそりゃ」
 東の問いにほとんど興味もないと言った口調で井原は言った。
「まさか、お前、知らないのかよ? ウエーブ事件!」
「さあ、何かそういや職員室で騒いでたが、俺には関係ないし」
 井原は腑抜けたように口にして、酒を呷った。
「関係ないわけないだろ? お前、ほんとに知らないのかよ? 荒川先生のウエーブ事件、お前がそもそもの原因なんだぞ?」
 東が語気を強めて突っかかる。
「はあ? なんで俺が?」
 怪訝な顔で井原が聞き返す。
「昨日、荒川先生が響さんに、井原に近づくなって、こんな田舎で、男同士で、教員同士で、リスクが高いぞって脅したんだと。それを瀬戸川と青山がたまたま聞いちまって、差別発言は許せないとかって今日のウエーブ事件だ」
「はあああああああ???!」
 端的な東の説明に井原は思わず立ち上がった。
「何だよ、それ!? なんで荒川先生が響さんにそんなこと言うんだよ? 何の権利があって!」
 バンと井原は両手でカウンターを叩く。
「だからカウンター壊すな」
 はあ、と元気がため息をつく。
「……じゃあ、響さんがダメ出ししたのは………」
 希望のかけらを見出したような表情で、井原が口走った。
「荒川先生に言われたからとは限らないけどな」
 そのかけらを打ち砕くかのように、元気の言葉が容赦なく井原の胸に刺さる。
「え、でも……」
「元気ぃ! お前、冷たすぎるぞ!」
 東が何か言いかけたのを遮って、井原が情けなく喚く。
「だから言っただろうが。お前の感情だけで突っ走るなって。周りもちゃんと見ろって」
 井原はガタンとまた座りなおした。

 


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