誰にもやらない13

back  next  top  Novels


「わあ、ポルシェ! カッコいいなぁ」
 河崎がたまたま乗ってきた白のクーペを見て無邪気に声を上げる。
「お前は小学生のガキか!」
 呆れられながらも、無邪気に懐いていく。
 父は厳しい方だったが、末っ子で、祖母や母親、兄や姉には甘やかされて育った浩輔は知らず知らずのうちに誰にでも甘えを見せる。
 だが、人としてきちんと躾けられたせいで、『タバコのポイ捨てはダメですよ』くらい、周りから恐れられている上司だろうと平気で意見する。
 すると河崎は苦々しげな顔でそれを拾い、上着のポケットに突っ込むのだ。
 初めはそんな調子で、人の悪意などというものはついぞ知らないまま、浩輔はただただ河崎についていくのに夢中だった。
 
   
 
 十二月の末には、部署の忘年会としてクライアントの接待も兼ねた北海道へのスキー旅行に、浩輔も同行させられた。
「えー、こんなとこ、俺、すべれませぇん! 河崎さーん!!」
 いきなりコブコブの前に連れて行かれ、高校のスキー教室以来の浩輔の主張も空しく、そのコブコブを難なくクリアして河崎はさっさと滑り降りてしまう。
 それをまたカッコイイな、などとぼんやり見ていた浩輔は転んで膝を捻挫してしまった。
 ドンクセーやつだと罵りながらも、河崎は浩輔を抱き抱えて下まで滑り降りた。
 その夜、痛い足をおして河崎と一緒に宴会に出席し、クライアントの酒を断ることもできずひどく酔わされた浩輔は、ベッドに寝かされても意識が曖昧だった。
 服を脱がされ、冷気に肌が曝される。
 束の間の解放感の後、他人の肌に包み込まれた時、浩輔は覚めやらぬ頭で妙な違和感を感じた。
 与えられる刺激はむしろ心地よく、ベッドの上で、浩輔の身体がバウンドした。
 そのうちに男の腕が、身体が、欲望のまま浩輔の身体を蹂躙し始めて、ようやく浩輔は覚醒した。
 河崎の目を間近に見た時の驚愕。
 喚き、叫んだが、カラカラになった喉から出る声は、言葉にならない。
 これっぽっちも予測していなかった事態に直面し、浩輔は河崎の腕の中で必死にもがく。
「何だよ、ちょこまか懐いてきたのは、俺に気があったんだろ?」
 河崎は浩輔の抵抗をうるさそうに封じた。
「出発までには支度しとけよ」
 翌朝、気絶したまま泥のような眠りから現実に引き戻された浩輔に、何食わぬ顔で河崎はそう言い残して部屋を出て行った。
 呆然と、浩輔はしばらく頭の中が真っ白で、痛みとだるさで身動きすらできなかった。
 セクハラなんて言葉は自分とは無関係だと思っていた。
 どうして自分がこんな目にあわなければならないのだろう。
 しかも、信頼し、必死でついていこうとしていた上司に裏切られるなんて。
 浩輔は洗い浚いぶちまけて、会社なんか辞めてしまおうとさえ思った。
 だが少し冷静になって考えてみると、親戚のコネにすがって入った会社だ、そんなことができるはずもない。
 当然親も適当な理由では納得しないだろう。
 第一事実を言ったとして誰がまともに聞いてくれるだろうか。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます