「うわ、間に合った!」
「おや、可愛いね、浩輔ちゃん、グリフィンドール」
「悩みましたよ、黒を基調に品位を保ってとか。あれ、なんか、藤堂さん今日、胸から上、えらくデカくないですか?」
「ホテルの顰蹙をかわない程度にね」
一行は勝手に携帯のシャッターが押されたりする中を客室用エレベーターへと向かった。
ややあって、またエレベーターが開き、黒のスーツの若い男が一人慌てたようすで降りたが、すぐに携帯をポケットから取り出した。
「あ、お疲れ様です。え、東京駅ですか? 早かったんですね。あ、えっと、実は今夜ハロウィンパーティで………、藤堂さんとか、佐々木さんとか…いや、あの、クリスマスはクリスマスで、今は……、は? かぼちゃパーティって……あ、いや、もう、早めに切り上げるつもりで……!………何だよ、いきなり切らなくっていいだろ!」
ブツブツ文句を言いながら若い男が客室用エレベーターへ向かった頃には、ロビーラウンジの客たちもすっかり静かになっていた。
ウォーターフロントにあるこのホテルのガラス張りの大きな窓からは東京湾をメインにした夜景が一望できる。
三十八階にある広いスイートルームでは、着飾った面々が、あちらこちらでワインやシャンパンの入ったグラスを手にゆったりと談笑していた。
テーブルにはフィンガーフードやスイーツが並び、オレンジ色のかぼちゃ型のランプやかなり存在感のある魔女の人形や羽を広げた蝙蝠などがここかしこにディスプレイされている。
「しかし、この夜景はあまり見たくない気がしないか? 浩輔ちゃん。古巣に戻ったような気分にさせられる」
「はあ、確かに………でも、藤堂さん、何でこのホテルに? しかもこんなスイートよく押さえられましたね? 昨日の今日で」
「巷で大騒ぎのハロウィンとは一味違うクールさを演出したんだ」
「はあ」
また藤堂のオブラートに何重にもくるみまくったような言い回しに浩輔は適当に相槌を打つ。
「なーに、河崎の名前をちょっと借りてね。やつのじいさん、このホテルのオーナーと懇意だってから」
河崎は藤堂や浩輔が籍を置く広告代理店「プラグイン」の代表だが、今日はスタジオで撮影に入っている。
「なるほどぉ。今日は悠ちゃんは?」
藤堂の同居人で画家である悠は、こういうイベントがある時大抵助っ人に来てくれるのだが。
「作品展の準備で忙しくてとても近寄れないよ、今は」
「そっか。それにしても昨日の今日で、よくこんなに芸能人集まりましたね」
「みんな面白そうなことに飢えてるのさ」
笑いながら浩輔はウォーターフロントの夜景から室内へと視線を移した。
「万里子さん、スパイダーメイクすてき!」
「ありがと。あら? アスカちゃん、彼は? 何か堂々と車寄せからカップルで見せつけてくれたけど、いつの間に付き合ってたの?」
黒の総レースのシックなドレスの小野万里子はさりげなくこめかみにスパイダーメイクを施している。
「付き合ってないよ。お友達。部屋に寄ってから来るって。彼、このホテルに住んでるの」
アスカはさらりと答える。
「ああ、沢村? けど、車寄せんとこお前らタクシーから降りた時、どっかのマスコミ張ってたぞ。ぜってぇスポーツ紙とか出るんじゃね?」
そう心配そうに言ってくれたバットマンTシャツの男は万里子の夫、井上俊一だ。
青山プロダクションの嘱託カメラマンである。
「出たらあたし、久々のゴシップネタ?」
「そんな嬉しそうに言わないでください」
むしろ面白そうに笑うアスカに横やりを入れたのは、黒いスーツに胸元にネームプレートらしきものをつけた秋山だ。
「やだ、秋山ちゃんじゃない、てっきりここのホテルの人かと思ったわよ、同化し過ぎ」
山内ひとみが彼らの会話を聞きつけて割り込んできた。
「私はパーティの準備をしていたので、これでいいんです」
「もう、須永ちゃん、黒タイに黒スーツに黒靴下ってねぇ、秋山ちゃんを見習ってちょっとはコスプレして楽しみなさいよ、お通夜みたいじゃないの」
傍らに立つ須永はひとみのマネージャーで、この大女優に振り回されながらもよくついていっている男だ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
