「ああ、そう、だよねぇ……。あ、でも、パーティはね、藤堂さんに話したら、だったらいっそ盛大にやろうよってことになって、ほら、あの人根っからのイベンターだから。みんなもちょっと声かけたら、即この気合の入れよう、好きなんだよ、楽しいこと。それにほらスキーん時のメンバー中心で、当り障りなしだから」
つとめて重くならないような言い方で良太は直子に微笑んだ。
「何企んでるんや?」
ふいに後ろから声がして振り向くと、金田一耕助だった。
「や、だなあ、千雪さん、何も企んだりしてませんよ」
「そうか? 何か怪しいで」
言いながら千雪はふわあとひとつあくびをした。
「お疲れのようですね」
「まあな、学会の教授の論文のてったいで、徹夜や」
「いよっ! 久しぶり! 名探偵が名探偵してるし!」
そこへ明るい声が割り込んできて千雪の肩をポンと叩く。
「万里子さん、久しぶりやな」
「そのまま映画に出ちゃったら?」
「それいいかも! 美しすぎる金田一って、もうキャッチ決まり?」
万里子の提案に直子が同調する。
「映画はないけど、東京出てきたとき、最初はほんま、ジャージとかやのうて、これでいこう思うてたんや」
「は?」
良太は思わず聞き返す。
「ただ、剣道着はやっぱ普段の生活にはめんどいし、ジャージの方が動きやすいしな」
「あ、そういえば、千雪さん、剣道、段持ちでしたよね」
「まあな、せえけど、最近忙しうて、身体もなまるし、運動がてら明日からこれで歩いてみるんもおもろいかな」
嬉々として語る千雪の背後からぬううっと大きな影が立ち上がった。
「や~め~ろ!」
何やら地の底から唸るような声に一同が固まった。
「やだ、京助さん、いたんだ? ホビットが出くわした不気味なストライダーみたい」
万里子が言うと、直子が「きゃはは、まんまだ~」と笑う。
「どしたの、げっそり無精ひげ!」
「司法解剖で二晩徹夜したんや。来んでええ、言うたのに」
京助に代わって千雪が万里子に答えた。
「何だ、そのホビット、ストライダーってのは」
むすっとしたまま京助はグラスのワインを飲み干した。
「え、知らないの? ホビットとストライダー!」
「こいつにロマンを求めるのは間違うてるわ」
ぼそりと呟く千雪の横で万里子と直子はそのホビットやストライダーの話で盛り上がり始めた。
その時、良太の上着のポケットで携帯が着信を知らせた。
画面には、遠野の文字があった。
遠野は小田事務所のパラリーガルだが、仕事は調査業務の比率が高い。
良太はドア口まで行って、電話に出た。
「あ、遠野さん? お疲れ様です。はい」
良太は遠野の話を聞きながら徐々に表情がこわばっていくのが自分でもわかった。
電話を終え、リビングルームに戻ってきて何気なく沢村を探した良太は、煌めく夜景を背景に二つの寄り添う影を見つけた。
ふっと一つ息をつくと、良太は今度は飲み物の世話をしている秋山と藤堂のところへ行った。
「今、遠野さんから連絡があって、やっぱいたそうです、沢村を張っているらしき人物が」
「良太ちゃん、顔が怖いよ」
藤堂が茶化す。
「自分の子供を興信所とかに探らせるような親って、マジ腹立つ!」
「良太は幸せな家庭に育ったんだな」
グラスにワインを注いでスタイリッシュなモデルたちに渡しながら秋山が苦笑いする。
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