「ったりまえだろ、ファンイベントってから。行くのか?」
稔が聞き返した。
「あ、ああ。明後日の祝日、神宮球場で、何球団かの合同イベントがあるらしいんや」
「お、そうか、神宮なら、それ、確かチケットあったぜ。大学の後輩が神宮にいてよ、毎年年間チケット買わされるんだ。そいつついでにファンイベントもきっちり送ってくれるからよ。おお、久しぶりに行くかあ」
「え、稔さんも?」
「ったりめーだろ! ちゃんと二枚、かなり選手とかかぶりつきで見られる内野席送ってくるからな。燃えるな、試合じゃなくても」
稔はすっかり行く気になっている。
まあ、いっか。
「ほな、頼むわ。そういうイベントとか、要領わからへんしな」
「よおし、ちゃんとスワローズのキャップ持ってってやる。お、そうだ、津波黒ジャケットもあったな」
「あ、いや……」
そういうのはと言いかけて、佐々木はまた、ま、いいかと思う。
人ごみで俺のことやなんかわかれへんやろけど、ジャケットや帽子とかあれば、その方がええか。
九時に迎えに行く、と言って稔は電話を切った。
野球が嫌いなわけやない。
だが沢村はそう思い込んでいる。
佐々木がゲームを見に行きたいともいわないので、遠征先に来ないかとは誘うのだが、ゲームに誘おうとも思っていないようだ。
それも今更か。
けれど、イベントではあっても、遠くからであっても、沢村の顔が見られるだろうことに、佐々木は気持ちが高揚しているのを笑った。
銀杏並木が陽に映えて連なり、黄金色の舗道が続いていた。
風に乗って一斉に葉が舞い落ちる。
もうそろそろ銀杏の季節も終わりなのだろう。
赤信号で停まった車の中から外に目をやった沢村は、ふっと和むのを覚えた。
正味二日の滞在でとんぼ返りのように昨日ニューヨークから戻ってきたところだった。
昔は日本を離れたいばっかだった。
だが今は、セントラルパークの豊かな紅葉より佐々木がいるこの街の秋がいい。
オフとはいえ、イベントが数日後に控えた間をぬってのニューヨーク行きは、ウイルソンとの新しいプロジェクトの打ち合わせだった。
フィフスアベニューに最近ウイルソンが購入した古いビルを利用して何かをやりたいと言い出したのは、春のことだ。
ちょうど佐々木が税金対策で売ることにした土地を、沢村とウイルソンが共同で経営するS&Wコーポレーション経由で購入したその頃だ。
ウイルソンがやりたいことをやればいいだろうと言うと、せっかく共同経営者なのに、沢村はイーストンのほとんど草野球のようなチームとスタジアムの経営以外に何もやっていない、お前も何かやれ、と文句をつけてきた。
むしろ自分が自分がというのがアメリカ人と思っていたが、ウイルソンは育ちが良すぎるのか、沢村に欲がなさすぎると背中を押してくれる。
何年か前、ボストンに自主トレで参加した際、MLBの選手を介して知り合ったウイルソンはMLBファンで結構意気投合し、野球チームを作りたい、スタジアムを一緒に経営しないかなどという話をしていた。
当時、家との確執に嫌気がさし、沢村はポスティングでいずれMLBに行くつもりだった。
スタジアムを一緒に経営という話が現実となったのは、良太と再会して、本気で良太を連れて渡米したいと思っていたその頃だ。
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