好きだから62

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 場内ではいつの間にか奪三振競争の優勝選手が決まり、賞品を手渡されていた。
 プログラムはトークイベントへと移る。
 これも特設ステージに十名ずつが上がり、選手へのインタビューと会場の観客とのQ&Aで進んでいく。
 司会のアナウンサーが挙手した観客の中からランダムに選ぶと、アシスタントがシートまで行ってマイクを差し向ける。
「山本選手、来年のホームラン何本うちますか?!」
 母親らしき女性の横でちょこなんと座っている小学生の女の子が大画面に映し出される。
「そうですね、五十本目指します!」
「がんばってください!」
 ほほえましいやり取りを佐々木は見上げながら、近くの誰かにマイクが向けられると自分が大写しになる可能性を知って、ヤバいと思い、キャップのツバをなお一層目深に下げる。
「よっしゃ! 来シーズンは三冠王だっ!」
 野太い声で喚く隣の稔のお気楽さに呆れながら、佐々木はステージを見やる。
 今度は沢村に対して若い女子が声を張り上げる。
「結婚のご予定ありますか?」
 沢村の不機嫌そうな顔がクローズアップされる。
「ありません」
 素っ気ない沢村の返答に、また場内が沸く。
 左隣の女子二人は何故か抱き合って奇声を上げている。
「ちっ、何とかって女優とイチャコラしてんだろ?! カオだけで結果が出るんならゲーノー界でも行った方がいんじゃね? プロ野球は実力がモノを言う世界だからな! 来シーズンの三冠王山本は確定だ! はっはっは!」
「うるさい! 燕オヤジ! イケメンだと売名で近づいてくる女とかあしらうのが大変なの! 来シーズンは沢村が三冠王に決まってるじゃん!」
 またしても佐々木越しに左隣の女子と燕オヤジが言い争いを始める。
「低レベルな小競り合いはやめや! 子供に笑われるで?」
 佐々木が声を張り上げると、前のシートに座る子供が振り返ってみているのに気づいて双方仕方なく自分の席に引っ込んだ。
 しかしファンとは有り難いものだと、佐々木は心の中で思い直す。
 本人が全く知らないところでもこうして弁明すらしてくれる。
「ったく、カオだけヤローのくせに、半端に二冠なんかとりやがって!」
 腕組みをしてふんぞり返っている稔を見て、佐々木は吹き出さずにはいられない。
「稔さん、ほんっと小学生ン時の全然まんまやね」
 ステージでは八木沼が質問を受け、いつものように自分で突っ込みを入れて場内を笑わせている。
 顔を上げた佐々木はそのままステージへと目を向けた。
 ふと、一つの視線を感じて鼓動が跳ね上がる。
 佐々木はステージからじっとこちらを凝視しているのが沢村だと気づいて、思わず目をそらした。
 まさか、やろ、俺に気づくとか、この距離で。
 いくらステージに近いシートとはいえ、自分に気づくはずがないだろうと、佐々木はしばらく俯いていた。
 ややあって顔を上げると、沢村は次の質問に答えてまた不愛想な返答を返していた。
 まさか……や。
 だが、佐々木はもうそれからステージに集中することはできなかった。

 


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