だが、次に山名が余計なことを言いさえしなければ、沢村もじっと我慢でスルーしていただろう。
「実和はこう見えて料理の腕はなかなかなんですよ。女はやはりまず料理ができませんとな、いい嫁として男に仕事をさせられませんからな」
こういう昭和な、いや明治かよ、な男がいつまでもそんな御託をぬかしてるから日本は見掛け倒しの後進国なんだよ。
「料理は女性に限らないでしょう。今いいなと思っている相手も料理がうまいんです、男ですけどね」
一瞬沢村の言葉を反芻するかのように場が静まり返り、次には山名がハハハと笑い飛ばした。
「そ、そりゃ男でも料理は……コックとか男が多いですしね」
「俺、付き合う対象を女性に限ってないんで。まあ今は男の方がいいかな」
ここまで言うつもりはなかったのだが、ついつい山名をぎゃふんと言わせたい衝動に駆られてしまった。
「まったく、冗談もほどほどにしろ、智弘」
宗太郎が剣のある言葉で沢村を詰る。
「いや、冗談を言うような場ではないでしょう」
こうなればこの傲慢で自己中な父親もぎゃふんと言わせてやりたくなる。
「見ましたよ、ビジネス誌で。最近は朝日ホールディングスもダイバシティ経営への取り組みを推進する企業として名乗りを上げているらしいじゃないですか」
沢村は淡々と言い放つ。
「これは強い味方ですよね」
「いい加減にしないか、智弘」
それまでほとんど口を出さなかった兄の宗一郎がきつい口調で沢村を睨みつけた。
もしそこで沢村の携帯が鳴らなければ、さらに宗一郎に対しても何か言葉をぶつけていたかもしれない。
席を立ったもののその場で英語でしゃべりだしたので、他のみんなは口を噤んだ。
ちょっと驚いたのは電話の相手だろう。
「おい、何だよ! 電話しろって言ったから電話したのに!」
面食らった相手にはお構いなく、大事な取引先と食事会の途中だが、急ぎの用ならすぐに向かう、と英語でまくし立てると、球団の通訳が困っているらしいなどともっともらしい理由を付けてたったかその場を逃げ出し、電話の相手の良太には後日、もし相手がお前の言ったことをそのまま受け取ってマスコミがそれを流したらどうするんだ、と怒鳴りつけられ、案の定、数日後には沢村選手大企業令嬢と結婚か、のスクープとなった。
というのが、事の顛末だ。
「バッカじゃない?」
話を聞いていたアスカが一言、ただでさえ忸怩たる思いの沢村を一刀両断に切って捨てた。
沢村も返す言葉がない。
「まさか佐々木ちゃんの名前とか出してないでしょうね?」
「それはない!」
「だったら、今までにもそんなスクープはあったわけで、そこで何で小田先生? 沢村宗太郎に対する訴訟や名誉棄損なんてことになるわけです?」
それまで黙って聞いていた秋山が口を挟んだ。
「問題はそこなんです。以前にも沢村宗太郎が興信所か何かを使って俺の調査をしていた節があって」
途端に沢村は渋面に変わる。
「ああ、なるほど、今度もやるかもしれない、しかも佐々木さんを巻き込むかもしれないことを懸念しているというわけですね?」
「もう既に変な奴が周りをうろついてますよ」
吐き捨てるように言うと、沢村は残りのブラウニーを一気に食べて紅茶を飲み干した。
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