たまにはクリスマスを12(ラスト)

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 湯から上がった千雪は棚に置いてあるバスローブを取ると羽織ってドアを開けた。
 ところがその千雪を背後から羽交い絞めにした京助がいきなりキスをしかけてくる。
 しばらく念入りに千雪の口腔を舐っていた京助がようやく離れると、「もうこれ以上お前のお世話はせえへんからな」と千雪は冷たく言い放った。
「可哀そうだと思わねぇのか?」
 京助は親指で自分の下半身を指した。
「金輪際思わん。自分で何とかせえ」
 千雪は両腕で京助を引きはがすと、バスルームをさっさと出て、自分のキャリーケースからシャツやパンツ、セーターを引っ張り出して着た。
 外はいつの間にか明るくなっていたが、粉雪がひっきりなしに降り注いでいる。
 シャワーを浴びた京助はタオルを腰に巻き付けて出てくると、シルビーを散歩に連れて行くべく、ベンチコートにマフラーをぐるぐる巻きにしている千雪を見て言った。
「おい、大丈夫か? スノトレ履いて行けよ。雪、積もってるぞ」
「スノトレ、あ、あった」
 キャリーケースにちゃんと京助が入れてくれていたらしい。
 万全の防寒対策をして千雪はシルビーとともに外に飛び出した。
 雪国に来ると、ハスキーという犬種はまさしく本領を発揮する。
 喜んで走る走る、京助のお陰で身体ががたついている千雪にはついていくのがやっとくらいだ。
 しかもシルビーは雪の塊に突っ込みたくてしょうがないわけで、リードに引っ張られて、一緒に雪に突っ込む羽目になる。
 車も人も余り通らないが、それでも車道は危ないので、千雪はリードを離すまいとしっかり手に持っている。
 やがて雪の中を走り回ったシルビーとともに千雪は疲労しきった身体を引きずりながらロッジに戻ってきて訴えた。
「京助、腹、減った」
「へえへえ。今、今支度しまっせ」
 キッチンで京助は一つ溜息をつくと、「タマゴとベーコンとサラダだな」と冷蔵庫を覗いて材料を取り出した。
 一足早くシルビーはごはんタイムだ。
 水を目一杯飲んでから、千雪が用意したご飯をはぐはぐと夢中になって食べている。
 雪まみれになった千雪は食べ終わったシルビーとしばし暖炉の前で温まっていたが、いい匂いがしてきたので、立ち上がってキッチンに向かう。
 京助はフライパンでスクランブルエッグを作っていた。
「クリスマスイブって今日やったか?」
「世の中じゃそうみたいだぜ? お前もロマンチックな一日を過ごしたくなったか? シャンパンも用意してあるぜ?」
 京助は二枚の皿に手早くスクランブルエッグとベーコンを取り分ける。
「アホやな。クリスマスって言えば、ケーキやろが!」
 京助はまた一つ溜息をついて首を横に振った。
「ケーキは何がいいんだ?」
「そらもちろん、シンプルなショートケーキやな」
「へえへえ、仰せの通りに。イチゴ、調達しといてよかったぜ」
 Tシャツにジーンズで動いていた京助は、さすがに寒さを感じてセーターを被ると、二人分の朝食をダイニングテーブルに並べた。
「コーヒー、入ったぞ」
 テレビをつけてぼんやり画面を見ていた千雪は、いそいそとテーブルにつく。
 千雪の前には、千雪の好きなヨーグルトがガラスの器に盛りつけられている。
「何なら、ケーキ作るのてったおか?」
 柔らかいロールパンを齧りながら千雪が言った。
「遠慮しとく。余計遅くなる」
「せっかく労働力を提供したろて言うてるのに」
 即答する京助に、千雪が言い返す。
「お前のは労働力じゃなくて、引っ掻き回すだけだろうが」
「何や、ソレ!」
 ムッとした千雪が文句を口にするのを無視して、京助はコーヒーを飲む。
 窓の外に目をやると、雪の白樺林、ロッジの中は温かい暖炉にクリスマスツリー。
 絵にかいたようなクリスマスじゃないか。
 京助は、まあ、クリスマスだろうが正月だろうが、千雪とこうやって、ぐうたらできればなんでもいいがな、と心の中で呟いた。 

 


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