ACT 4
日中は晴れて暖かかったが、夜になるとぐんと気温が下がり、師走のビル街を冷たい風が我が物顔で吹き抜けていく。
「あ、高広じゃない」
テレビ局を出てタクシーを拾おうと、通りを渡りかけた工藤は、声をかけられて振り返った。
「お前こそ、こんな時間に何やってんだ」
久しぶりに顔を見る山内ひとみは、ここのところ何の問題を起こすこともなく、最近はコメンテーターもどきで情報番組にも借り出されるわ、CMにドラマに映画にと、大物美人俳優と言われるだけの演技力を見せつけるわで、停滞気味だった人気をぶり返しつつある。
現在は工藤のプロデュースによるドラマにも出演していた。
「特番が一本あったのよ。良太ちゃん、どこ?」
ワインレッドの革のコートの襟を合わせながら、ひとみは寒そうに訊ねた。
「今日はオフだ」
心にひっかかりがあるせいで、工藤はいつにも増して苦々しい顔を向ける。
「なーんだ、せっかく久しぶりに良太ちゃんの顔が見られると思ったのに」
「お前につきあわせてたら、でろんでろんになるくらいが関の山だ」
「出し惜しみしなくてもいいじゃない。まあいいわ、今夜のところは、高広の仏頂面でも我慢したげる。今、須永ちゃん呼んだから、ご飯食べよ」
ひとみはさっさと工藤の腕をとってテレビ局の通用口傍らの植え込み辺りまで工藤を引っ張っていく。
工藤相手にそんな傍若無人な態度をとれるのはこのひとみと、今はフリーでやっているディレクターの下柳くらいなものだろう。
「飲みたいだけだろ、お前」
工藤もちょっと酒が欲しい気分ではある。
「ちょっといいお店見つけたのよ」
程なく脇道からひとみのマネージャー、須永が運転する黒塗りのセダンが現れ、二人の前に来て停まった。
「良太くん、一緒じゃないんですか?」
「休みだ、今日は」
工藤は煩そうに答えた。
「そうですかぁ」
須永はいかにも残念そうに返事を返した。
煩い上司を持つ立場にある須永と良太は相身互い、上司の文句のひとつも言い合うのが常だが、それでも自分たちの上司のことを信頼しているというところで一致しているのだ。
三人が訪れたのは代官山にある和風の居酒屋、外観は入り口らしきドアがひとつあるだけの黒い塀に覆われた隠れ家的な雰囲気の店だ。
ひとしきり出てくる料理を前に健啖振りを発揮していたひとみはある程度酒が入ると、切り出したのは良太のことだ。
「良太のCM、結構な反響じゃない。ヤギちゃんから聞いたんだけど、良太をもうCMなんかに使わないなんて、本気じゃないでしょ?」
「良太はタレントじゃない」
工藤は眉を潜めて冷酒の入ったグラスを空ける。
「何よ、それ! あんな売れてんのに、スポンサーだって当然次も使いたいって言ってるでしょ? 大体今時肩書きなんていくつ持っていたって自由なの。せっかくの逸材なのに!」
ひとみの言葉は工藤の痛いところをついてくる。
だからついつい工藤も過剰に反応してしまう。
「何が逸材だ。良太はピンチヒッターでやらせただけだ。鴻池さんも承知している」
「ウソ、鴻池さんが? ほんとかしら、みすみす売れるってわかってるのに。まさか、高広、強引にやめさせたんじゃないでしょうね?」
ひとみは工藤の顔を覗き込む。
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