「なあに、そん時は青山プロダクションって、強い味方があるからね~」
下柳はしゃあしゃあと言いながら煙草を咥える。
「おやよっす、ヤギさん」
スタッフが二人を見て、軽く頭を下げて通り抜ける。
「おう、張り切ってるじゃん、山ちゃん」
「ヤギさん、禁煙するんじゃなかったんですかぁ」
「明日からな」
その姿を見て怯え去られる工藤と、ヤギさんと愛称で呼ばれて、若いスタッフからも慕われる下柳とはMBC時代からの仕事仲間である。
髭面、革ジャンにジーンズと下柳のイメージはもう二十年来変っていない。
つい最近フリーになった下柳は自分の仕事にもこだわりを持ち続け、視聴率を度外視したドキュメンタリー番組ばかりを創り続けている。
「あ、そうそう、スカンジナビア行き、来週早々に早まった」
「年明けじゃないのか? 嘉人はすぐに動くのは無理だぞ」
そういう工藤も実は、視聴率の取れそうなバラエティよりドキュメンタリーが好きだったりする。
スカンジナビア行きというのも、志村嘉人をメインキャストに一年がかりで追っている北欧の生態系や人々の暮らしのドキュメントだ。
バラエティはガラではないと自分ではわかっているから、セッティングはすることはあっても、工藤はセンスのあるプロダクションに任せきりだ。
「んなこたわかってる。一足先に現地取材だ。今なら、えらく飛行機代が安いんだよ」
工藤は苦笑いする。
その時携帯が鳴り、会議が終わったのでこちらに向かうと良太から連絡が入った。
良太が来るのと入れ違えに、工藤はまたスタジオに戻った。
「あ、ヤギさん、お久しぶりで~す」
「おう、元気そうじゃん」
オンエアが終わって工藤がスタジオから出てくると、良太と下柳はまだしゃべっている。
「あら、広瀬くん、こんにちは。最近随分な人気者になっちゃったわね」
工藤と一緒に出てきたのは、ニュースキャスターの室井だ。
美貌と知性を両立させている人気キャスターだが、自分の欲しいものに対しては貪欲さを隠そうともしない。
「あ、どうもお疲れ様です」
良太はぺこりと頭を下げるが、鴻池の所業に一枚噛んでいたということがわかってからは、どうしてもその視線の奥に挑戦的なものを感じてしまう。
「行くぞ、良太。ヤギ、また連絡する」
まだ何か言いたげな室井を遮るように、工藤は良太を急かしてテレビ局を出る。
「五時半か。まだ時間があるし、メシでも食うか」
車に乗り込み、良太がエンジンをかけたところで、工藤は言った。
「え、だって、これから忘年会でしょ? それに、今夜なんてどこも一杯じゃないっすか? 俺もこのあと、クリスマスパーティに呼ばれてるんです、藤堂さんに」
「藤堂に?」
思いがけない切り返しに工藤は出鼻を削がれるとともに、女とではなくても今度は藤堂という名前に反応する。
ここのところえらく良太にまとわりついていると思ったら、あのヤロウ!
