ほんの少し届かない24

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 もっともプロジェクトは既に動き始めているらしいし、無論沢村も関わっているのだが、まだまだプロ野球に貢献するとばかりに、今年の契約更改時も確かに推定七千万円アップの六億程で一発サインしたはずだ。
「ホクホクでMLBも吹っ飛んだか?」
 などと揶揄する記事も書かれたりしたが、実業家としての沢村にしてみればホクホクというほどの額でもないのだ。
 いや、それより、『良太、お前が一緒じゃなきゃ行かない』なんてことが理由だなどとはさすがに記者も思いも寄らないだろうけれど。
「俺のせいにすんなよな!」
 良太はハンドルを握りながらそのことを思い出してつい喚く。
 ともあれ、大山の皮肉や沢村の戯言に関わっている場合ではなかった。
 せっかく久しぶりに工藤とお出かけの予定が入っているのだ。
 行く先は東洋商事、アポの相手は社長の綾小路紫紀。
 手土産は高級なものではないが、日比谷の芝ビルに入っている御菓子処『やさか』の和菓子だ。
 『やさか』は小林千雪の幼馴染、黒岩研二の店である。
 本店は京都にあり、研二は三代目になる。
 近年芝ビルのオーナーにその味を気に入られて日比谷に甘味処も兼ねた店を出したという。
 千雪の従姉にあたる紫紀の夫人小夜子も研二とは馴染みで、一度良太が綾小路の家に招かれた折、そういう話も小夜子から聞いた。
 最近販売を始めた最中が殊のほか評判だというので、昨日のうちに注文しておいた最中などを引き取ってから、良太は待ち合わせをしている汐留の英報堂へと車を走らせる。
 四時少し前にビル正面に車を停めるや、工藤が中から現れた。
「あれ、工藤……、ふーん、あれがドイツの英報堂かよ」
 一人ではなく、外人二人と話をしながら歩いてくる。
 藤田自動車のCMに志村嘉人が起用され、その打ち合わせで英報堂ドイツ支社の営業と会うことになっていたはずだが、おそらくそれがこの二人なのだろう。
 ドイツ語は七面倒だとか言いながらも、工藤はある程度しゃべれるはずだ。
 エントランス正面で二人のドイツ営業マンと話している工藤は、容貌といいガタイといいドイツ人なんかに引けを取らない。
「ああゆうとこ見ると、できる男が仕事してるって感じで、妙にカッコいいじゃんかよ」
 普段オヤジなんぞと言っているが、そんじょそこいらの若造にはたちうちできないキレモノのオーラがあって、どこぞのよれよれの窓際オヤジと一緒にできるものではない。
「あああっ、俺ってバカ!」
 一瞬呆けて工藤を見ていた自分に活を入れるべく、両手で頬をぺちっと叩く。
 と、ちょっと目を放した間に、二人の外人にもう一人加わって、ニコニコと工藤を見上げている。
「って、何でやっぱり女がいるんだよっ!」
 これみよがしなミニスカートのスーツではなく、パンツスーツにコートを羽織り、後ろでブロンドをまとめてはいるが、遠目にも若い美人だ。
 ニコニコではなくウットリ気味に見えてしまう自分にも腹が立つ。
 ようやく工藤は三人と握手を交わすと、良太の待つ車へ来て後部座席のドアを開けた。
「お疲れ様です」
「ああ、東洋商事のあと、フジタの広告宣伝部長と英報堂ドイツ支社の連中と会食することになった。志村は今、スタジオだったな」
 また、スケジュール変更だ、と良太は頭の中で再確認する。

 


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