九月に入っても、酷暑の夏は依然続いていた。
そんな中、
絶好調!
そんな言葉をついつい口にしそうなほど、広瀬良太は調子がよかった。
ミラノから帰ってきた良太は、張り切っていた。
「ハイ、それでは明後日の午後三時に工藤がお伺いいたしますので、よろしくお願いいたします」
社長の工藤から再三言われていたスポンサーとやっとアポイントが取れて、良太は受話器を置いてほっと胸を撫で下ろす。
秋の番組編成に合わせて一応の約束を取りつけていたにもかかわらずドラマのスポンサー契約がのびのびになっていた。
明日工藤がニューヨークから帰ってくるまでにはと思っていたのに、先方の担当者がいきなり夏休みを取って海外に行ったまま一週間も連絡がつかなかったのだ。
「ったく、いきなりいなくなるんだもんよ~」
「良太ちゃん、サンプロの坂崎さんからお電話ですよ」
ぶつぶつ文句を言っていると、鈴木さんが良太を呼んだ。
「はい、広瀬です、お世話になっております~。あ、それなんですけど、何とか日程繰り上げることできませんでしょうか? 実は、中川の映画の撮影スケジュールで、どうしても都合がつかなくなってしまって……」
相手に有無を言わせない、絶対命令的な工藤の仕事の進め方に染まってきたわけではないのだが、それなりに、無理を承知で頼み込む、的なやり方も段々板についてきたかも知れない。
今回のドラマ「静かなる眠り」の撮影では、イタリアロケにも同行した制作会社の坂崎ディレクターは、じゃあ、調整してみるから、と言って電話を切った。
もっとも、長年一緒に仕事をしている工藤の無理難題は坂崎にとっても今に始まったことではないらしい。
「ほーんとイヤーねー、しあわせそーで」
わざわざオフィスにやってきて、口を尖らせながらのアスカに思い切りからかわれても、良太はあえて反論することもせず、そ知らぬ振りで仕事にいそしんでいた。
中川アスカと彼女のマネージャー秋山はつい昨日、イタリア、リヴィエラロケから帰国したばかりだ。
アスカに急遽来年夏公開の映画出演が決まり、九月末にはクランクインのため、ちょうどその頃にロケ予定だったスケジュールを繰り上げなくてはならなくなった。
イタリアから帰ってきて十日もたたないうちにまたイタリアに飛ぶというかなりきついスケジュールだったが、いつも不平たらたらで文句を口にするアスカも、さすがに時間をやりくりしてくれる秋山に黙って従い、無事必要なカットは撮り終えていた。
いざとなればプロの顔で仕事をこなすアスカだが、ちょっと時間があると、オフィスに寄って良太のことをからかうのを忘れてはいない。
広瀬良太、ここ株式会社青山プロダクションに籍を置く、二十五歳の若者である。
テレビ番組、映画の企画制作およびタレントのプロモーション等が会社の主な業務内容だ。
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