弱小とはいえ数名のタレントを抱えたこの会社の社長工藤高広は、自身は敏腕プロデューサーとして業界に名を馳せ、手掛けた仕事は必ず当たるとまで言われた男である。
この夏公開された、工藤プロデュースによるベストセラー作家小林千雪原作の映画「かぜをいたみ」の興行成績や評判も上々で、主人公である老弁護士役、大御所俳優多喜川誠とともに若手弁護士役で一作目からW主演の青山プロダクション所属俳優志村嘉人も最近かなり忙しい人になっている。
この映画のスポンサーとのタイアップでオーディションをして選んだ新人南澤奈々の人気もぐんぐんあがり、テレビの情報番組に顔を出し、CMにも起用され、ネットや情報誌でも高評価を得ている。
良太も社長秘書兼運転手から最近ではプロデュースの仕事も少しずつやらせてもらうようになった。
八月のCM出演なんていう経験はイレギュラー中のイレギュラーなんだけど。
良太はCMロケで訪れたイタリア行脚を思い起こし、ちょっと眉を顰める。
青山プロダクション所属俳優中川アスカと一緒にCMに出演するはずだった、長田プロダクションのタレント尾崎貴司が怪我をして出演できないというので、代理店プラグインの藤堂の意見で急遽、良太がその代役をすることになったのだ。
良太が代役を務めることに関しては工藤と良太の間でひと悶着あったのだが、それはとりあえずおいておいて、代役にしては思った以上に周りの反応はよかった。
無論、結果が出るのはオンエアを待ってのことだが。
とにかく社員数がタレントを入れても総勢十名程度の会社である、やれることは何でもやらないとまわっていかない。
何しろこの会社に入社しようという者はかなりのツワモノか、それなりの事情がある連中ばかりだ。
社長の工藤には、敏腕プロデューサーという肩書きの他に、知る人ぞ知る、広域暴力団中山組組長の甥という、如何ともしがたい出生の事実があるからだ。
たとえ本人がきっぱり縁を切っているとしても。
良太も親の背負った大きな借金という枷がなかったら、大学四年の秋、この会社を訪れることはおそらくなかっただろう。
しかし、子供を谷に突き落とすライオンのごときやり方でもって工藤に鍛えられてきたお陰で、世の中どんな災難が待ち受けていようと、良太は軽く乗り越えられそうな自信が今はある。
工藤から限りなく不可能に近いような指令を下されたとしても、「わっかりましたあ!」と思わず口にしてしまうくらい、何でもやれる気がする。
もちろん自分がプロデュースの端くれを担っている番組にも、CM撮影のために一週間分休ませてもらったわけだから、ディレクターやスタッフにはちゃんと手土産を持参した。
「お前がいなくても、ちゃんと番組は成り立ってるさ」
良太の顔を見るたびに毒舌を吐く、嫌味なシナリオライターの大山とも、今のところ大きく衝突もせずにきている。
俺もおとなになったよな。
心の中で良太は自分を褒めてやって、極力大山に刃向かわないようにしていた。
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