Moon Light18

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「室井はしたたかな女で、それこそ自分の地位をステップアップするために、鴻池と関係を持ったとかある筋では言われているらしいが」
 下柳はそう言って鼻で笑う。
「鴻池さんと…」
「だから、良太ちゃん、あんまり世間の噂、気にすんなってこと」
 それだけ言うとコーヒーを飲み干し、また入ってきたときと同じように、おじゃまさま、と鈴木さんに軽く言い残して下柳はオフィスを出て行った。
 心配して、わざわざ寄ってくれたんだ。
 下柳の優しさが嬉しい。
 しかし何だか室井のことが気になる。
 鴻池の愛人だというのが事実ならどういうことだ?
 何だろう?
 良太の心の中で、目に見えない疑惑がとぐろを巻いている。
 その疑惑に輪をかけるような情報を掴んだと、今度は業界関係者から聞き込みをしていた谷川が電話をくれた。
「長田プロの社長の愛人が、あの鴻池と会っているところを見たっていう話がある。しかもただ会っているだけじゃない。鴻池が金を渡していたっていうんだ。あの長田はその愛人の言うことなら何でも聞くらしいぞ」
 また、愛人かよ! 一体、何だよ、それ!?
 何で、ここにきて、鴻池さんがやたらと出てくるわけ?
 しかも、長田プロにまで……
 疑惑は広がるばかりだった。
「やっぱ、工藤さんに言わなくちゃ!」
 良太は、あれからずっとろくに口も聞かず、ずっと険悪ムードが続いている工藤に、重大な話があるから、時間があったらオフィスに寄ってほしい、と携帯の留守電に入れた。
 ナータンにごはんをやってから、オフィスに戻って、工藤を待つこと数時間。
 工藤がやってきたのは、ほとんど日付が変わろうという時間だった。
「何だ? 重要な話ってのは」
「鴻池さんのことなんです」
 意を決して良太は告げる。
「鴻池さんが長田プロと、何らかの関係があるかもしれないんです」
 工藤は訝しげに良太の話を促した。
 良太は小田の話から谷川の話をかいつまんで話した。
「ばかばかしい!」
 工藤の怒りに満ちた声がオフィスに響く。
「鴻池が長田を使って俺を陥れて何の得がある」
「でも……」
「あの人はプロデューサー時代から非情で残酷なことはやる男だが、他人を陥れるようなことはやったことはない!」
 決死の覚悟で告げた良太だが、逆に怒鳴り返され、「もういい、とっとと行って寝ろ」と、工藤はそのままオフィスを去ってしまった。
 ふう―――――――――
 取り付く島もないってこのことだ。
 完全に工藤の信頼を失ったよな、これで。
「いずれにせよ、工藤さんは俺なんか比べ物にならないくらい、鴻池さんに全幅の信頼を寄せているんだ」
 そう確信すると、まるでブラックホールのように胸に広がっていく悔しさや淋しさを、良太はどうすることもできなかった。

 


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