「へえへえ。それにしても工藤のやつ、ケツの穴の小ぃせーこと言ってねーで、俳優でも何でもやらせてやればいいだろーが、良太によ」
京助が言うと、「とか何とか、ユキがテレビに出るのだって文句言ってたくせに」とアスカが応酬する。
「ああ~、そこまで工藤のやつ、良太に執着してんのか?」
「むしろ…執着いうたら、鴻池さんにその言葉感じるで」
千雪が口を挟んだ。
「鴻池さん?」
アスカが訝しげに聞き返す。
「どうして? あの人が何の関係あるの?」
「まあ、ちょっと調べてみたい。京助、どうにかして、その鴻池さんに会われへんか?」
「鴻池か。鴻池産業の後継ぎって言われてる男だろ? 兄貴と並んで取り沙汰されてる。顔を合わせたことはある」
ヘタに人気女優が小林千雪のマンションなど訪れると、マスコミに何を書かれるかわからない。
それを口が酸っぱくなるほど千雪はアスカに言うのだが、彼女はどこ吹く風だ。
何かわかったら連絡するということで、千雪は「でもユキ、絶対危ないことは京助にやらせるのよ!」と喚くアスカをこそっと部屋から帰した。
「工藤、いるかい?」
ふらりとオフィスに現れた髭面の男を良太は笑って出迎えた。
「ヤギさん! お久しぶりです」
週明けの月曜日、よく晴れた日の昼下がり。
このところの良太は曜日の感覚さえ鈍くなりがちだ。
「何だ、最近局の方に全然顔見せないじゃないか。その代わり工藤の不景気な面はよく拝むが」
工藤の類友下柳は顎鬚に手をやりながらボソリと言った。
「はあ」
力ない良太の返事に、「どうした、どうした、元気がとりえの良太ちゃんが」と笑いながらソファに腰を据え、煙草をくわえる。
「ドラマ、出てるんだって?」
ヤギさんとこまで、噂になってるのか、と思うと、良太はまた一つため息をついた。
「ええ…っていっても、ほんのちょっとなんですけど。そのほんのちょっとがまた、俺には荷が重くって。勝手にそんなの引き受けたから、工藤さんにはメチャ怒られるし」
「んなの、気にすんなって。若いうちは何でもやったらいいんだ」
コーヒーを運んできた鈴木さんに、どうも~、と笑い、下柳はぷかーと煙をくゆらせる。
昨今どこもかしこも禁煙で、実を言えばこのオフィスも禁煙にしたのだが、下柳などは特別に鈴木さんが灰皿を用意してくれる。
「はあ、でもその撮影が終るまで他の仕事はするなって、工藤さんに言われて……。却って工藤さんの負担を増やしてしまって、俺……」
「だから、気にするなって。しかしそうか。だから、顔見なかったんだな。良太ちゃんに言おうと思ってたんだ。きっと気にしてるだろうからさ」
「え、何ですか?」
良太が身を乗り出すと、下柳は「ここだけの話」と前置いて、
「実は最近耳にしたんだが、室井淳子が鴻池の愛人だって話」
「え………?」
良太は驚いた。
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