残っているあとワンカットは、他の俳優の都合上、翌週にならないと撮影できない。
そのシーンのセリフを思い出しながら、良太はパソコンの前に座っていた。
阿部とは二度ほど飲みに行ったが、それを知ったアスカに、あの男はゲイだからやめた方がいい、と断言され、うそだろ~、とまたガックリ。
「阿部はそんなつもりじゃないよ。純粋に仕事の話してんだぜ? ゲイだからって色眼鏡で見るようなマネすんなよ!」
などとアスカに言い返したものの、あれから再三、飲みに行こうという阿部からの電話が携帯にあったが、何となくその誘いには気がのらなくて断っている。
長田プロに関する新情報が入ったのは、そんなことを考えている時だった。
静かなオフィスに電話が鳴り響いた。
「なんだ俊一か~。どうしたんだよ、こんな時間に」
井上俊一は撮影の仕事で沖縄にいるはずである。
「その言い草は何だよ、せっかくでかい情報掴んだってのに」
「じゃ、もったいぶらずに言えばいいじゃん」
「あのやろう、足なんかぴんぴんしてんだよ、尾崎貴司! 女と遊びに来てやがったんだよ」
井上の言うところによると、何と沖縄で、足を怪我をしてしばらく動けないと役を降りたはずの尾崎貴司に出くわしたという。
尾崎を問い詰めたところ、自分は仕事をしたかったのにマネージャーに無理やり怪我をして動けないことにしろと言われて従ったまでだ、と話したらしい。
「どういうことだよ、それ!」
わざわざ違約金を支払ってまで、何のためにそんなことを――――!?
良太はその情報を早速小田に電話で知らせた。
翌日、また小田から連絡が入った。
小田がパラリーガルの遠野を使って、今度はそのマネージャーを掴まえて問い詰めさせたところによると、社長命令で、自分は何も知らない、の一点張りだという。
小田は直に社長の長田にアポを取ろうとしたが、会ってくれそうにないので、長田が会社に入るところを強襲、問い詰めたが素直に認めるはずもなく、訴訟を起こす手続きをとったという。
どういうことだ?
わけがわからないよ。
本当なら、工藤に相談したいのに。
良太は相変らず工藤とはほとんど顔を合わせていなかった。
やっぱ、あの室井ってアナとうまくやってんのかな…。
「というわけで、何かいい知恵あったらかして! ユキ」
美味しいシュークリームを手土産に千雪の部屋へやってきたアスカは、千雪と京助の前で、そう手を合わせて拝んだ。
「お前な、んなもん、人の恋路なんかに首を突っ込むと、馬に蹴られるのが関の山だってのが常識だろうが」
いつもにもましてバッサリと言い切ったのは京助だ。
「何よ、それ!」
「お前、知らないのか? 人の恋路を邪魔するやつはって言うだろうが」
「知らないわよ、そんなオッサンな発想」
「何だと?」
傍でまた喧喧囂囂始まりそうな予感に、千雪は「つまらんこと言ってんと、マジメに考え!」と一喝する。
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