「やっと病院に駆けつけた時は、佐古は頭を打って意識がまだ戻ってないし、俺は携帯を落としたことにも気づかなかった」
工藤は帰国してから誰にも話していなかったようなことを、良太に吐露している自分を嗤う。
「工藤さん……」
ストレートに状況を受け取ってしまう良太は、その時の工藤の心情を慮った。
「俺の素性を知っても動じないやつだったから、その程度の怪我でくたばることはないとは思ったが、やつの嫁さんと佐古の意識が戻るのを確かめるまで待ってた」
良太はその背中を見つめながら、拳を握り締める。
「それに、佐古を見ながら、そういえば似たようなことが前にあったとか忌々しく思い出してた」
「え、………」
良太は顔を上げた。
「鴻池のことで、お前を信じなくて悪かった。鴻池がそんなことをする意味がわからなかったんだ。いい加減許してくれてもいいだろう」
ぼそり、と呟くように工藤は言うと、工藤はとっとと車に向う。
鴻池の屋敷でも済まなかったといわれた時は、良太は何を言われたのかと耳を疑ったが、今度はほんとに工藤が自分に詫びているのだとわかった。
工藤が自分に謝るとか、あんな状況で信頼していた鴻池にある意味裏切られたことで、工藤もパニクってしまったんじゃないかと思ったのだが。
そもそも迂闊に鴻池の車なんかに乗ってしまって、工藤だけでなく千雪や京助にまで手を煩わせただけでなく、撮影陣にまで迷惑をかけたのは自分のせいだと良太は地に潜りたいくらいだった。
だいたいあんなこっぱずかしいところを千雪にまで見られて、良太は立つ瀬がなく喚き散らしたのだ。
二人の歩くペーブメントに青く月影が落ちている。
頭の中で工藤の言葉を反芻していた良太は、工藤の影を慌てて追いかける。
「ちぇ、何だよ、上から目線で謝られたってさ……」
良太はブツブツと呟く。
「良太」
ポケっとしていた良太が振り向きざま、工藤が引き寄せる。
心臓バクバクのキス。
それこそ意識が飛びそうだ。
「行くぞ!」
また乱暴に良太を離してたったか車に乗り込む工藤を慌てて追った良太は、サイドシートに滑り込んだ。
雲が切れた月が煌々と、ビル街へと走り去る車を見送っていた。
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