以前あのフリーライターの土方もかぎつけたことだ。
CMなんかに出たら、他にも良太の過去を掘り起こして、それをマスコミに流そうという者がいる可能性も十分考えられるのだ。
そんなことをされたら、今度はCMの放映のみならず青山プロダクションの信用にも関わってくるだろう。
良太は自分が勝手にやったことが、周りに大きく影響してくるのだということを改めて思い知る。
今度は会社だけではすまない、代理店であるプラグインやCM制作にあたった業者はもとより、鴻池物産でも被害を被りかねないのだ。
鴻池が良太を調べたのもあたりまえの話だろう。
「撮影が終ったあとで、君のことを調べさせてもらった。私ならそんなものを揉み消すのはわけがない」
良太は鴻池の言葉の奥深さに思わずぞっとする。
「臭い過去があるタレントなんかゴロゴロいるから、心配しなくても大丈夫だ」
鴻池と別れてからもその冷たい眼差しが、頭から離れない。
やれるとは思っていなかったし、断るつもりだった。
しかし、鴻池にそれが工藤のためだからと言われ押し切られて、結局出演を承諾してしまったのだ。
工藤さんに何て言おう。
とりあえず、工藤がニューヨークから帰ってきてからだ。
明るい月の下をとぼとぼと歩きながら、良太はそう決めた。
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