Moon Light8

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 近くの喫茶店に入り、鴻池の話を聞いた良太は仰天した。
「俺が、ドラマに? そんなの無理に決まってます」
 ピアニストの青年役が気に入らないから、鴻池は良太にやれというのだ。
 実は夏に撮影予定だったCMを怪我で降板した長田プロの尾崎貴司がドラマでもピアニスト役で出演予定だったのだが、当然こちらも降板したため阿部由治という若手俳優が代役で出演している。
「私がかつてMBCのプロデューサーだったことは知っているね?」
 念を押されるまでもなく、工藤の師といってもいいくらいの存在で、大学時代、MBC時代を通じて工藤の先輩にあたり、完璧主義で有能なプロデューサーだったという。
 抜きん出た容姿にそぐわぬ残酷なまでに非情な男だったということも、同じMBCにいた工藤の類友下柳あたりからも良太はよく聞かされていた。
「私が言うんだから間違いはないよ」
 そう言われてしまうと、良太は何と返せばいいのかわからない。
「でも、つい昨日出た週刊誌にもいろいろ書かれまして」
 良太は青山プロ所属俳優にCM出演させるために工藤が手をまわしたなどとおかしな中傷記事が出たのは自分のせいだし、とにかくその話は辞退したいと言った。
「工藤がプロデュースした映画やドラマも娯楽としてはなかなかいいものが揃っている。興行成績もいい。だが、工藤もそろそろタイトルを狙ってもいいと、君は思わないか?」
 鴻池は渋る良太に、そんなことを言い出した。
 工藤は、仕事は徹底的にやるのだが、自分へのタイトルなどに関しては無力すぎる、と鴻池は言う。
「実は映画祭も狙えると思うようなシナリオを持っているんだが、それを工藤にプロデュースさせたいんだ。自分ができなかった分、工藤には頑張って欲しいと考えている」
 良太はその話の内容に思わず引き込まれた。
「ほんとですか?」
「ああ。その映画にぜひ君を使いたいと、CM撮影の時から考えていたんだ」
 だが、話はあらぬ方向に向おうとしている。
 ちょっと待ってくれ……
「そこで、ぜひ君にドラマに出て欲しい、それで、まず、君という存在をアピールする。うまくいけば今持っているシナリオを使った映画にも出てもらい、工藤にタイトルを取らせる」
「でも、俺は……」
 躊躇いがちに言いかける良太の言葉を遮って鴻池は続ける。
「いいか? そんな中傷記事を跳ね返すには、君が堂々とドラマに出ることだろう?」
 良太は少し眉をひそめながら、目の前のコーヒーに視線を落とした。
「もちろん君が承諾すれば、明るみに出るとまずい情報をも揉み消す用意がある」
「え………!」
 良太は驚いて鴻池を見つめた。
 その情報って、まさか俺が男に買われたとかゆー………鴻池さん、知ってる?

 


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