それから何日かは工藤も良太も仕事に追われ、すれ違うばかりだった。
たまたまオフィスで顔を合わせると、それでも工藤は良太の機嫌を伺うかのように、「今夜なら、早めに帰ってこれそうだから、メシ、行くか?」などと聞いてくるのだが、良太の方は「今夜は下柳チームとの打ち合わせで遅くなります」とそっけなく返す。
いくら飼い犬だって、いつでも尻尾振ってると思ったら、大間違いなんだよっ!!
工藤も例のバラエティ特番対策で、連日KBCでミーティングが続いているようだ。
制作室長は工藤に「君に任せる」的な発言をしているようだが、要はドラマがコケたら責任はお前が取れというわけだ。
勿論テレビ局側もコケるとまでは思ってはいないが、あとは視聴率の問題だろう。
嘱託カメラマンの井上が、そんな話をどこぞから聞き込んできて工藤に怒りをぶちまける。
秋山もそれらしいことを耳にしたらしく、いつになくイラついていた。
そんなオフィスへ佳乃がたまに顔を見せるのだが、工藤はいないというと寂しそうな顔をして帰っていく。
良太は肩を落として階段を降りていく佳乃の姿に、逆にいたたまれなくなって声をかけると、戻ってきて頼りない笑みを浮かべながら、佳乃はソファに腰を降ろした。
「高広さんて、自分も一人だからかしら、昔は野良猫とか保護犬とかよく面倒みてたわよ」
しばらくオフィスでぼんやりしていた佳乃が何となく口にすると、良太は意外なことを聞いた気がした。
「ほんとですか? だって、仕事で俺がネコの面倒見てやれないとか喚くと、ネコなんか二、三日食わなくても死にゃしないとかって、ニンピニンなこと言ってますよ」
ふふふ、と佳乃は笑う。
「高広さんてぶっきらぼうだし、べったりってことないから優しく見えないだけよ。野良猫はご飯をもらうとさっさと勝手にどこかに消えちゃうけど。犬は何匹かいたわよ。昔のおうちって庭が広かったから自由にさせてたし、何か犬の意思を尊重する、みたいな。でもちゃんと犬の方も人間が何を考えているかわかるようになるのよね」
工藤は過去のこと自体滅多に語ることもないし、写真なども見たこともない。
良太の全く知らない、子供の頃の工藤が彼女の中には未だにいるのだろう。
「私、いかにも人工的な自分のうちより、高広さんのうちが好きだった。母は潔癖症な人でネコとか犬とか嫌いだったし。今でも目に浮かぶのよ、お庭に大きなケヤキの樹があって、そこでいつも大きな犬たちが昼寝をしてるの。私はその犬のフカフカの毛に枕をして本を読んでいたわ」
今は人手に渡ってしまったという工藤の家、佳乃の家。
それに良太の家も今はない。
でもそれぞれが暖かい家の思い出を心の中にしまって、それを支えに今も生きているのかもしれない。
良太はかつて住んでいた家のちっぽけな庭を懐かしげに思い出した。
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