Blue Moon14

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 工藤が帰ってきた。
 六月に入ったばかりというのに、ここのところしとしとと雨模様が続いている。
 それに呼応するように良太の心の内も重くなりがちだったのだが、会えようが会えまいが、工藤が日本にいるのといないのとでは休日の時間の流れ方が違う。
 『ナカムラプロ』特番の話は、どこかから既に聞いたらしく、良太やみんなの心配をよそに工藤は案の定「放っておけ」ときた。
 霧弥と千雪とを京都で引き合わせ、霧弥が依頼を引き受けてくれたことや、綾小路邸を訪ねたこと、『知床』で良太のプランが通ったこと、勢い込んで話す良太の頭にポンと手を置いて、「今夜戻ったら、メシでも食いに行こう」と言い残して工藤はオフィスを出ていった。
 そんな工藤の背中を見つめながら、良太は嬉しさを隠せない。
 夕方ナータンにご飯をやってちょっと猫グッズで遊んでやってからオフィスに戻り、良太は工藤の帰るのを待っていた。
 やがて工藤が帰り、電話を一本かけるから待ってろと言われて大人しく待っていたのだが、いきなりドアが開いて入ってきたのは佳乃だった。
 工藤は「またかけ直す」と相手に言い「どうした? 佳乃」と心配そうな声でいかにも優しげに問い掛ける。
「高広さん………」
 今にも泣きそうな顔で駆け寄り、工藤に縋る佳乃はさながらロマンス映画のヒロインだ。
「悪いな、良太、メシはまた今度だ」
 半分呆気にとられながら佳乃の華奢な肩を抱いて去る工藤の背中を見送った。

 
  
 

  
 その夜、良太はコンビニで仕入れてきたポテトチップスやおでんをつまみに缶ビールを自棄飲みして、ベッドに転がっていた。
「高広さん、とか言っちゃってさ!」
 そりゃ確かに、佳乃のような可憐な花のような女性にあんな風に縋ってこられて邪険にできるような男がいたらお目にかかりたい。
 演技ができる女優などとは違って、佳乃の涙は本物って気がするし。
 工藤でなくても自分でも同じようにしたかも知れない。
 だからって、まがりなりにも今からデートしようって相手の目の前で、彼女の肩を抱いてまた今度だあ?
 ざけんじゃねーよ!
 工藤の背中がずうっと遠くに感じた。
 当たり前だよな、俺より一回り以上も工藤、長く生きてるんだ、四十年のうちにどんな人間とどんな時間を共有してきたかなんて、俺にわかるはずもない。
 そう簡単に手が届くはずがない。
 ちゆきのことも、千雪のことも、加絵や田所夫人、ひとみや他にもいるだろう工藤の相手たちにしても。
 千雪を恋人と呼ぶには語弊があるかも知れないが、いやさ京助が黙っていないだろうけど、工藤の気持ちとしてはきっと一番強そう。
 けれどやっぱ、千雪の心は京助に向いているのだとしたら、あの佳乃はどうだろう。
 黒川真帆やニュースキャスターなんかと違ってウソがなさそうだし。
 どう考えても恋人、なんてポジションじゃあ、ないよな、俺なんか、工藤にとっては。
「悪いな」で「また今度」だもんな。
 フン! 勝手にしやがれ。
 俺だって忙しいんだからな!
 

 


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