「相当俺を見くびってくれたからな、良太ちゃんには満足いってもらえたかな?」
おそらく野元監督が良太をそう呼んだのだろう、霧弥は腕組みしてバカにしたようなセリフをはく。
「俺、別に見くびったつもりは……」
音は全編荘厳で、時に心の琴線を震わせるようなフレーズが繰り返される。
「データ、野元のオヤジに渡して、詰めるのは次に東京に来たときまででいいだろ」
「次っていつ頃になりますか?」
「八月の頭?」
「わかりました」
手を伸ばしてデータの入ったUSBを良太が受け取ろうとすると、ひょい、と霧弥はそれを遠ざける。
「俺にここまでやらせたんだぜ? 打ち上げくらい、やってくれんだろ?」
「あ、はい、勿論、それはもう、野元監督やスタッフさんもお呼びして…ご都合に合わせてセッティングを……」
「んなもん、いらねえよ。俺はお前にって言ってんだ。今夜は予定ねえしな」
「え、これから、ですか?」
良太は何となくいや~な予感がした。
いくらなんでもそれはなかろうと思うのだが、昨日の小笠原の言葉がちょっと気にかからないではない。
「んじゃま、行こうぜ、良太ちゃん」
真っ赤でもなくバカでかくもないだけ、まだ良太の許容範囲ではあるが、その手の車の中ではブラックボディがエレガントとも言えるかもしれなくても、アウディのカブリオレなんかのナビシートに乗せられて、良太は浮き足立つような気がして身体を縮こまらせていた。
カブリオレはすべるように霧弥のプライベートルームのあるホテルの駐車場に滑り込んだ。
エレベーターへと、霧弥はすたすたと歩いて行く。
「ちょ、霧弥さん、あの……」
霧弥は何も言わない。
スイートルームのある上層階でエレベーターが止まり、霧弥はたったか部屋まで歩いてカードキーでドアを開けると、横柄にあごをしゃくって、良太を中へと促す。
データがない限り、良太は霧弥にさからえない。
やがてホテルのスタッフが酒の用意のために現れた。
高級ワインと一緒にハムやチーズ、アンチョビ、フォアグラをのせたカナッペや、キャビアにサラダなどが盛りつけられた皿がワゴンに載っている。
「さてと」
スタッフが部屋を出ると、霧弥は良太に向き直る。
「ただで俺にここまでさせようなんて思っちゃいないよな?」
「とんでもない、勿論きちんと……」
「きっちり落とし前はつけてくれんだろ? 良太ちゃん」
「落とし前って、あのお……」
言いかけた良太の上着のポケットにいきなり手を突っ込むと良太の携帯を取り出し、「え、ちょっと……」と慌てる良太を押し戻して、勝手に電源を切る。
「途中で鳴ったら気がそがれるからな」
ニヤニヤと笑ったかと思うと霧弥は良太の腕を掴み、ベッドルームへ引きずっていく。
「待ってください、ちょ……霧弥さん……」
本気で抵抗する良太をものともせず、大きなベッドに押し倒した。
「あんだけの啖呵きったんだ、俺って男をちゃんと再認識してもらわないことにはな?」
やっぱ、当然、根に持ってやがったか。
良太の身体を全身で押さえつけ、暴れる良太の腕を掴んで動きを封じ込める。
「気に入ったよ、お前、なかなか可愛いしな。お前の身体に叩き込んでやるよ」
霧弥は顔を覗き込む。
「へ、身体って、あの、ほんと、冗談はやめてください!」
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