「身体使う仕事だもんな、プロデューサーってのは」
あくまでも打ち合わせの延長上での飲み会であってほしいという良太の願いはかなわないらしい。
「いや、で、でも、シャワーも使ってないし俺……」
こいつは暴力で自分を征服しようとしてるんだ。
霧弥の目の残忍そうな光に気づいた良太は、到底冗談では済まされないと心底焦り始める。
何で毎度毎度こうなるんだと自分を呪わずにいられない。
しかも相手はほとんど男だ。
殺されるかと思ったことさえある。
いくら、ホテルの部屋なんかにのこのこついて行くな、とか言われたって、データを人質にされてここで帰ったら今度こそこの話はチャラになる。
あんな音を聴かされたら、良太の中に工藤の存在がなかったとしたら、その性格に難ありとはいえ、もうどうぞお気に召すままという気にもなったかもしれないが。
いつでもタイムリーに工藤がきてくれるなんて、映画のシナリオでもないだろう。
俺へのしっぺ返しってわけかよ。
それに。
工藤、どう見たって佳乃に傾いてるよな。
そういえばパリに発つ前の晩だって、佳乃のことになったら、何か工藤のやつ、ごまかしやがった。
にしたって、それとこれとは別の話だろ? どうするよ、俺!
抵抗を諦めた振りをして、霧弥がちょっと力を抜いたその時、目いっぱい霧弥をベッドから突き倒すと、良太は一目散にドア口に向かって走った。
チェーンを外し、ドアを開けようとした良太は、追ってきた霧弥に背後からヘッドロックをかけられる。
黒々としたタトゥーを入れた霧弥の腕の力はミュージシャンというより、まるでファイターだ。
苦しい! 死ぬ……!
良太の頭の中が白濁し始めたその時、霧弥の携帯が鳴り響いた。
仕方なくしつこく鳴り続ける携帯を開いた霧弥は相手を確認するとちっと舌打ちし、「何の用だよ」と良太の首に腕を回したままぶっきらぼうに応対する。
「いや、音ができたって聞いたからさ、すぐにでも聴いてみたくなって。ドンペリピンク、用意したんだよ」
野元監督だった。
「こっちから連絡する」
切ろうとした霧弥に、「今、実は部屋の外にいるんだよ」と野元が言う。
「フロントで聞いたら、君、部屋にいるっていうじゃないか」
「くっそ、あれほどいないって言っておけと言ったのに」
相手が世界的な映画監督とあれば、教えざるを得なかったのだろう。
ようやく良太を放した霧弥は、不承不承ドアを開ける。
「おっ、良太ちゃん、ここにいたのか。君、携帯切ってるだろ? 工藤さんが怒ってたぜ。さっさと帰った方がいい」
言われなくてもと、良太は乱れたシャツを直し、剥ぎ取られたジャケットと携帯を拾うと、「また、ご連絡します」と二人にぺこりと頭を下げ、部屋を出た。
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