工藤、怒るだろうなーーー。
ま、この際、そんなこと気にしちゃいられない。
良太は『知床』の小笠原出演プランを紙面に具体化し、それが終わると万が一の場合を考えて、KIRIYAに代わるミュージシャンを探してみようととりあえずネットを探してみる。
「……そうだよな、もう、霧弥のやつ、監督にしゃべっちまってるかもしれないよな」
はたと気づく。
既に夜の八時、遅いかも……そうなると。
考えたくはないが監督が降りるとか言い出したり………。
まずいよな~まずいよな~。
ものを食べる気にもなれず、良太が鬱々とネットを巡っていると、静まり返ったオフィスに電話のベルが鳴り響いた。
「はいっ! 青山プロダクション!」
まさか、野元監督?!
思わずそう叫びそうになった良太だが、電話の向こうから聞こえてきた意外な声に、ぐっと息を詰まらせる。
「室長と顧問に青山さんの意向を伝えましたところ、一度話を聞いてみようということになりました」
なんと東洋商事の中平である。
「え、あ、はい、ありがとうございます!」
うわ、やったあ!
良太は心の中でガッツポーズを取る。
「ただ何分、顧問にはここ数日スケジュールの余裕がございませんので、恐縮ですがご自宅の方に一度ご足労願えればと顧問が申しておりまして、つきましては明後日の晩、お食事をご一緒にとのことですが、広瀬さんのご都合はいかがでしょうか?」
「はい、承知いたしました」
明後日の晩はかろうじて何も無いはずだ。
パワスポの会議が遅れなければ。
有頂天の良太はすばやく脳みそをフル回転させて頭にあるスケジュールを反芻し、面食らいながらもなんとか電話を終えたのだが。
「広瀬さん、っつったよな? 俺でいんだよな?」
中平は工藤にとは確かに言わなかった。
「待てよ、顧問って、誰だよ?」
漫画ならタラリと冷や汗が流れるところだ。
すかさずネットを探り、東洋商事のサイトで役員の名前をあたるが、広報室顧問という役職は見当たらない。
どういうことだろうとページを手繰っているうちにいきなり今度は携帯が鳴って、良太は驚いて思わず飛び上がる。
「はい、お疲れ様ですっ!」
「何だ、えらく勢い込んで」
やっと待ち人からの電話である。
いつの間にかもう十二時になろうとしていた。
向こうは午後五時頃だろう。
「さっきこっちに着いた。これからマルローに会う。そっちは何かあるか?」
「あのっ、えっと実は……」
焦る良太に、「何だ? 早くしろ」と工藤は急かせる。
「あとでまたメールしますけど、下柳さんの『知床』に小笠原を借りたいってことになって、それで東洋商事の中平さんに連絡したら、今度顧問のうちで話を聞くからっておっしゃったんですが、顧問ってその、どなたのことか……」
「バカヤロ!」
早速の怒鳴り声に、良太は咄嗟に受話器を離す。
「社長の紫紀さんだろうが。もともと広報部に席を置いていたんだが、社長ってことで今度は顧問って形で広報部に顔をつなげとくらしい。んなこた、中平にちゃんと確認しておけ」
「へ……うそっ、じゃ、俺ひとりでまたあのお屋敷行けっていうんですか? え、でも、食事に伺うのに手土産、手土産って何持ってったらいいんですか?」
「そんなことは自分の頭で考えろ! 切るぞ」
切れる寸前、良太は「うわ、待ってっ!」と慌てた。
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