コーヒーを二つのマグカップに注ぎ分け、井原は響の前に置いた。
「ごめん!」
急に謝る井原を響は見た。
「え……?」
「夕べはほんと、歯止めが利かなくなって、めっちゃムリさせた」
井原はテーブルに額が付くほど頭を下げた。
「バカ! そんなことで謝るな!」
「へ?」
「余計恥ずかしくなるだろ!」
言いながら頬が熱くなるのを響は誤魔化すすべもなかった。
「怒ってる?」
「………………怒って……ない」
「だって、ずっとムッツリしてるし」
「だから、頭も身体もフワフワして、思考能力が戻らないんだよっ!」
響の言葉に、井原はみるみる笑顔を取り戻す。
「よかった! 怒ってなくて、じゃあ、飯食ったら、続きする?」
「するかバカっ!」
響はそれ以上の言葉が思いつかず、卵もトマトも口に詰め込んで咀嚼するのに時間がかかる。
「可愛い!」
臆面もなく言う井原を睨みつけながら、響はようやく飲み込むとコーヒーを飲もうとして、「あつ…!」と吐き出す寸前で止めた。
「え、火傷した? 大丈夫?」
井原は慌てて冷蔵庫から氷を取り出して小さめの塊を響の口元に差し出した。
響はとりあえずそれを口に含んだが、今度は冷たすぎて頭が痛くなる。
やがて落ち着くと、「何これって、火傷にきくのか?」と聞いた。
「まあ、冷やすから多少は聞くと思うけど、痛い? 口の中」
響は首を横に振った。
「こういうの、猫舌っていうのか? 俺、迂闊な奴だから、たまにある」
すると井原はにこにこと笑って響を見る。
「何だよ?」
「十年分の幸せを今嚙み締めてる」
「バカっ」
それはこっちのセリフだとか、響もつい思ってしまったが、井原のように素直に口にできない。
それでも食事の後は、コーヒーを持ってリビングに移動し、江藤先生と秀喜のウエディングコンサートのことを真面目に話し合った。
「もちろん、出席者にはチケットって形で一律出してもらうから、やっぱ先に出欠を確認しないとな」
井原はぐびりとコーヒーを飲む。
「あの店、何人くらい入るんだ? 年配の人にはスタンディングってわけにもいかないよな」
響も元気の店を思い浮かべながら言った。
「軽食と飲み物を用意して、セルフでってことにしても、せいぜい三十人が限度かな」
「三十人も入るのか?」
「ライブの時はスタンディングで五十人くらいは入ったって元気が言ってた」
「え……酸欠になりそう」
「まあ、最後はダンスもありでいいかもだけど、出席希望者が多い場合は仕方ないから抽選ってことで」
「抽選?」
「案外、江藤先生のファンって多いし、何より元気と響さんが演奏するってことになったら、やっぱね」
「元気はありかもだけど何で俺?」
響は怪訝そうに井原の顔を見やる。
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