夏が来る43(ラスト)

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「だから、何で去年より人数が増えてるんだ!」
 元気が溜め込んでいた鬱憤を晴らすかのように声を上げたのは、中央道をしばらく走ったところの諏訪湖サービスエリアでのことだった。
「まあまあ、俺ら車別なんだからいいじゃん」
 井原が頭が沸騰しそうな元気を宥めるように言った。
 これでもかというほど気温は朝からぐんぐん上がり、関東地方では四十度にもなろうかという青空が眩しい八月のある日のことだ。
 さすがにアスファルトからの照り返しが半端なく、休憩に寄ったものの、すぐにも建物の中にみんなが駆け込んだ。
「アイス食べたい!」
「俺も、あっち―!」
 早速紀子に続いて豪がアイス売り場の前で足を止めた。
 結局、みんなが食べることになって、順番にアイスを受け取ると空いているテーブルへと向かう。
「ったく、何を好き好んでこのクソ暑いのに、もっと暑いとこへ向かわなきゃならないんだ」
 ムッとした顔のまま、元気は腰を下ろし、それでもアイスはひと時の涼しさをもたらしてくれる。
「うわ! 何これ! うっまー! なんで日本て何でもこう美味いんだ? サービスエリアのアイスまで!」
 妙に感激しているのはこれでも高校教師をしている井原だ。
「何てか、コンビニであれファミレスであれ、何を食しても外れがない! 日本、すごい!」
「それ、俺も逆のこと思いましたよ。アメリカ行った時。どこに行ってもアイスやケーキなんか何食べても甘過ぎ!」
 ぺろりとアイスを平らげた豪も井原に追随する。
「ほんと、これじゃ東が太るわけだ」
「余計なお世話だ、井原!」
 それでも運動不足を解消するために、ここのところ毎日ラジオ体操をやっている東が言い返した。
 昨年に続き、全国灼熱のライブと称して東京ドームを皮切りに、横浜アリーナ、千葉マリンスタジアム、と超人気ロックバンド『GENKI』のライブツアーが始まったのだが、例によってGコーポレーション社長、浅野涼子の命により、元気は謎のギタリストGとして、ライブツアーのアンコールのみにサプライズで登場することになっている。
 差し当って横浜と千葉に出演するべく横浜に向かっているのだが、昨年、千葉に行った時は、ディズニーランドに行きたいという紀子とギャラリー巡りをしたいという東とともに、機材を乗せても余裕な豪の大きめのSUVでツアーに出向いたのだが、今年はなぜか二人増えていた。
「アメリカって余剰なくらいの食糧事情な気がしてたけど。ヨーロッパは比べるべくもないな。上手いのは五つ星レストランとか、ほんの一握りだし」
 感慨深げに話すのは響だ。
「響さん、お母さんに会うことになってて、ついでにGENKIのライブも見せてもらおうってことになって」
 軽い井原の発言で、仕方なく元気は追加のチケットをみっちゃんに頼んだ。
「ああ、チケットはちょっと手に入らないけど、バックステージパス渡すわ」
 と軽くみっちゃんが返してくれたので、元気とその仲間たちご一行様はバックステージでGENKIを堪能することになったわけである。
 もちろん、ホテルもスイートを四部屋ドーンと用意してくれた。
 元気の機嫌を損ねないように、格別の配慮がなされたわけだ。
 ライブから戻ってきて興奮冷めやらぬ夜は、部屋に用意されたスペシャルディナーが待っていた。
「豪華な夜景に、スイートルームとか、まるで新婚旅行」
 井原と響はスイートの一つを陣取っていた。
「アホか」
 それでも、二人きりで大きな窓から夜景を眺めながらシャンパンなどを呑みかわすのは悪くはないかも知れない。
「前途洋々の俺たちの未来に、乾杯!」
 恥ずかしげもなく口にする井原に、響も苦笑しながらグラスを合わせる。
「きっと明日はいいことがありますよ」
「なにそれ」
 響は井原が言うと本当になりそうな気がして、クスクス笑った。
 夏はまだこれからだし。
 夜景の中に溶け込むように、ゆっくりと二人の唇が重なった。

 


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