笑い飛ばしたいほどの可能性が現実となるとは、全く思いもよらぬ展開となってしまった。
「そもそも、じゃあ一体何なんだよ、巷で知られているあのみょうちきな仮装は!」
イラついて工藤はつい声をあげる。
「俺はあいつの隣の部屋を使うから、あとで用意しといてくれ」
階下に降りて行った工藤は平造に言った。
「レポートの邪魔になりそうだからな」
とってつけのような理由を口にして。
「わかりました」
平造は工藤の身体を気遣っての進言ならいくらもするが、工藤の行動に対してあまり何でだなどとは聞かないし、工藤が連れてきた客について詮索もしない。
そこのところは工藤も動きやすいのだが、学生時代、今も悪友として付き合いがある同期の荒木や小田とともに桜木ちゆきをこの別荘につれて来た時は、滅多に笑わない平造が笑みを浮かべていたのを覚えている。
どちらかというと口の悪い弁の立つちゆきだったが、平造とは妙にうまがあったようで、一緒に料理などをしてコロコロ笑っていた。
平造にとってもちゆきの死はショックだったらしいし、工藤の心の内を一番わかってくれているのもこの男だ。
この男がいなければ今の自分はないし、感謝をしてもしきれないくらいだと思っている。
だからこそ、工藤のことを心配するより、平造自身の心配もしろと言いたいのだが。
「腰が痛いと言っていたが大丈夫か? 薪割りなんかやらなくてもいいぞ。暖炉なんか飾りにしとけ。寒いようならヒーターでも買えばいい」
キッチンからダイニングへ現れ、テーブルに皿やカトラリーを並べ始めた平造に工藤は言った。
「大丈夫です。やっぱ薪は温かいですしな。それに今日は客人が薪割りを手伝ってくれました」
意外な話を聞いて、工藤は平造を見た。
「上の、あれが薪割りなんかできるのか?」
「はい、何でも剣道部で鍛えられたとかで。段持ちだそうですよ。見かけによりませんな。クリカラモンモンが面白いと、わしの背中をしげしげと眺めよりました」
笑ってはいないが、どうやら千雪は偏屈な老人の気に入ったようだ。
さっきからそれこそ意外な面を上の客人は見せてくれるものだと、工藤は一層千雪に興味を抱きつつあった。
ふとキーボードを叩く手を止めると、テーブルの上にある飾り時計の針が六時二十五分を差していた。
とりあえず半分ほど打ち込み、ちょうどキリがいいところではあり、腹も減っていた。
さっき携帯の電源を入れると、また小夜子から電話が入っていたので、小夜子にはエッセーを書くのに遠出をしていると千雪は一応連絡しておいた。
相変わらず京助からはなかった。
半分落胆している自分に嫌気が差し、タブレットをしまうと千雪は部屋を出た。
リビングに降りて行くと、工藤が大きなテーブルにタブレットを開き、携帯で何やら怒鳴っているのに出くわした。
「何だって? ああ、明日は鈴木さん休みだ。何? お前はそんなことしなくていい! 留守電になってるだろ。オフはオフらしく休んでればいいんだ。おい、万里子? 聞いてるのか? …くそっ、切りやがった」
眉間の皺を深くして、灰皿で煙を流している煙草を銜えると工藤はまたどこかへ電話をし始めた。
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