花のふる日は27

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    ACT 6
  
 

 
 綾小路京助は時間が経つにつれて次第に焦りを感じ始めていた。
 少し時間を置けば、などとも考えはしたが、実際はあくる朝には千雪に連絡を取ろうとし、だがおそらく自分とわかれば携帯にも出ないだろうし、電源を切っている可能性も高いと思われた。
 たまたま研究室に来ていた佐久間を捕まえて、千雪に電話を入れさせてみたが、案の定電源を切っているらしく、とりあえず留守電に電話をくれるようにと佐久間にメッセージを入れさせ、千雪から連絡があったら知らせろ、と言っておいた。
 結局いてもたってもいられず、千雪のアパートに行ってみたのだが、返事がなく、鍵を開けて中に入ったが、千雪はいなかった。
 ひょっとして引越しなどは後回しで、原の家に早速行ってしまったのかもしれない。
 原に電話をしてみようかどうしようかと逡巡しているところへ、京助が席を置いているT大学法医学教室の富永教授から連絡が入り、すぐに司法解剖に立ち会うようにというお達しである。
 富永教授は監察医務院の監察医も兼務しているため、京助はその助手として司法解剖に立ち会うことが多い。
 異様な撲殺死体から開放されたのは夕方になってからだった。
 佐久間に電話をしてみたが、千雪からは連絡がないと言う。
「あのやろう、一体どこにいるんだ!」
 イライラしながら、ようすを探るべく原に電話をかけた。
「あら、先日はお世話さまでした。ええ、まあ、お母様の? ええ、それはもう、いつでもお伺い申し上げますが……」
 電話に出たのは千雪の伯母だった。
 京助は母親に着物をあつらえたいなどと適当な話をしながら、千雪のようすを何とか伺おうと頭を巡らした。
「そういえば先日、千雪くんはそちらにご厄介になるかもしれないとか聞きましたが、もう引っ越しとか決まったんでしょうか?」
「ええ、主人も娘も勧めているんですけどね。一人じゃ何かと不便でございましょう? ちょっと前向きに考えているみたいなことを申しておりましたけど、また、エッセイの執筆があるとかで山に篭るとか申しまして、まあ、一人じゃないとお仕事もはかどらないのかも知れませんし、無理には申しませんけどねぇ」
 エッセイで山に篭る? 何だそれは?
 いずれにせよ、一応、原の家とは連絡を取っているらしい。
 少しはほっとしたものの、どこにいるのだとか突っ込んで聞けそうにない。
「ええ、母の日には間に合わせられればと。よろしくお願いします」
 この際、原の家や千雪の伯父が社長をしている呉服問屋『大和屋』とつながりを作っておくのもいいかもしれない。
 携帯を切ってから、やはり千雪が自分から逃げていってしまいそうな状況に、苛立ちを募らせた。
 そんな時に限って、また富永教授から呼び出しを受けることになった。
「一体、何を考えてるんだ! 殺人鬼のクソヤロウ、俺は今それどころじゃないってのに!」
 夜中の一時である。
 京助は持っていきようのない怒りを立て続けに起こった殺人事件に対してぶつけるように言い捨て、ろくろく休んでもいない状態で、車のエンジンをかけた。
 

 


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